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 いよいよ北の隣国の国王陛下が王城に到着するという一報があった。

 北の国を出たのが情報通りなら5日前だ。なのに、もう王都に着くというのか?!


 途中での滞在用に、かつて北の外交官達が隠れ家に使用したとされる没落貴族の屋敷を綺麗に整え、宿泊できるようにしておいたそうだ。そこから出発したと報告が来て、まだ2日だ。

 本来なら、そこからも4日はかかる行程を北の王都からにしても半分の日程で来ている事になる。

 一体、どういう事なのか?


 迎える準備は済んでいるので大丈夫だが、移動のスピードが尋常ではないので王城の方では混乱が広がっている。どうりで出迎えの騎士団も断られたはずだ。

 このスピードなら逆に足手まといになるだろう。


 リリベルには一つ思い付く事がある。

 「リリベル嬢、君は北の国王一行のスピードに心当たりがありそうだな?」

 と王城の広間で待機する王太子に問われる。

 広間には王太子夫妻、ザック殿下以外に宰相閣下と補佐官のガブリエラ様、外務大臣とその補佐官のエリオット様や国の重鎮達が待機していた。国王陛下には到着次第伝えられるそうだ。


 皆の目がリリベルに向く中で、リリベルは

 「考えられるとすれば国王陛下の馬車を引いている馬は子爵領の野生馬に近い馬なのかと思います」と伝えると広間が騒つく。

 「確かに報せを持って来た先鋒は白馬が馬車を引いていたと言っていた。このスピードなら間違いないと思われるな」


 スネイプニルの子孫が北にもいるという事なのか?

 でもそれは不思議な事では決してない。大体、マラカス1世が乗ってきた馬だって、もしかしたら子孫の方の可能性もある。

 だから女神も北も彼を見逃してくれた。


 「リリベル嬢、何を考えている?」ザック殿下が聞いてくる。

 彼は北を迎える準備の間に、ウザ絡みしてくる王太子の盾にずっとなってくれていた。

 何が楽しくて私に構ってくるのか?マジで“侍従に囚われる王太子”みたいじゃないか!?

 ルト兄って、もしかして、いつもこんな風に王太子に絡まれているのだろうか?それに王太子妃は平気なのか?


 「ザック殿下、王太子殿下がウザいなって」小声で言うと「ゴメン」って返ってきた。

 ええ?そこ謝るの?無礼だろって言わないんだね。

 「冗談だよ、殿下。野生馬の事考えてたの。もしかしたら子爵領に来たスネイプニルも子孫の方だったんじゃないかって」

 「そうか、だったら北にも子孫がいてもおかしくないな」

 「そうでしょ」

 「兄上の件は気にしなくていい。本当に悪いと思っているんだ。お陰でライオット卿は最近、兄から外されている」

 確かにライ兄なら、こんな王太子には文句を言ってくれるだろう。彼の私情は絡みまくるだろうが。


 あ!王太子妃様と目が合った。氷のような目をしてる。あれは怒っているが我慢してるっぽいぞ。

 「ザック殿下!王太子殿下に言って!離婚したくなければ、そろそろ諦めてって」「うん。分かった」

 ザック殿下は項垂れながらトボトボ王太子殿下の方に行く。


 王太子殿下はリリベルを動揺させて、ザック殿下辺りに情報を漏らさないか、ワザと絡んでいる気がする。だが限界なのは、きっと王太子妃様の方だ。彼女を悲しませてまでやる事じゃない。

 それにリリベルに恨みの矛先がやって来そうだ。いつだって恋愛の恨みは、やってる本人ではなくて相手にいくものだ。お門違いというものは色恋の中では、なぜか当たり前の行為なのだ。


 相手は権力者だ。リリベルが無罪でも罪は作れるし、いつだって闇に葬られる。だから遺書はいつでも書いてます!とリリベルはならない。改善がなければ、北の件を最後に逃げるつもり100%だ。なんなら北の件も打ち捨ててドロンだ。


 リリベルが最早逃げる算段を立てていると国王陛下と王妃殿下が広間にお越しになった。北の国王が間もなく到着すると報告がされたのかもしれない。

 王太子殿下を始めリリベルも周囲に習って陛下に頭を下げる。国王陛下のお声で皆で頭を上げると、ザック殿下がリリベルの横に戻って来る。

 「殿下?王族の皆様と一緒にいなくてもいいんですか?」リリベルは子爵家代表だが子爵家の身分故、広間の末端にいる。


 父はもちろん来るはずもなく、伯父も子爵領に行ったきりだ。別荘の準備は既に整っているらしい。

 恐らく北の国王陛下が子爵領に来ると伯父は想定しているのだろう。アイオット様は領地だし、お陰でリリベルは一人だ。まあいいけどね。元から底辺なのだから無くす物も惜しむ物も、むしろ少なくて助かるというものだ。だから遠慮もしないけど。


 「君の事が心配だからな」

 ザック殿下は多分、リリベルが生徒会長になったからだろうか?お前から君呼びになった。そんなに気を遣わなくてもいいのにな。

 「何もしませんよ?心配しなくても」

 「違うって!君自身を心配してるんだろ」

 「…今日はちゃんと前を見て、足元も周囲も見て歩きますから」

 「そのボケ、ワザとか?」

 「いいえ。本気ですよ。王太子妃様に殺されるかもしれませんから」

 「俺、義姉上にそんな事させたら、兄上を一生許さないわ」

 「ザック殿下、どんなにオシドリ夫婦でも危機は一度や二度じゃないんです。ましてや私は一度目の危機の妹ですから」

 「君は本当にフィリップの言う通り老成してるな」

 ザック殿下は溜息を吐いた。


 その時「北の国王陛下のご到着です」という報せと共に広間の扉が開く。

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