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それから1ヶ月程してお祖母様から手紙が来た。
お祖母様からの手紙は初めてだったが、書き始めの第一声が
「ベルモントの手紙はいつも酷いでしょう?本当に変な所が全部、爺様にソックリなんだから。クララベルも私の娘だから似た人を選んだのは仕方ないのでしょうねぇ」
から始まっていて、ちょっと面白いと思ってしまった。
手紙によると、湖の側に建設中の伯父の別荘は順調で、間もなく内装も整うそうだ。本当は夏前くらいの完成予定だったのに、本気の伯父は金と人をかけて倍速でやり遂げた。
爺様は青薔薇を別荘の庭ではなく、近くに植えてせっせと世話しているそうで、リリベルが渡した最初の株も既に増やしているそうだ。
青薔薇を植えてから野生馬達が頻繁に湖近くまで足を運ぶようになったらしく、何か関係があるのかしらね?と婆様は不思議がっていた。
そして爺様からモバイル6世の話や爺様の生い立ちの話などを全て聞いたそうで「何で今更?もっと早く話せよ!」と爺様の腹に一発食らわせたそうだ。
多分、婆様のそういう所はリリベルが似たんだろう。“鉄壁の淑女”もやる時はやるんだな。
ナル兄ちゃんは、まだ野生馬には乗れていないそうだ。最初は出会うのも苦労していたそうだ。伯父が別荘の件で子爵領に来たら、また兄ちゃんは伯父に扱き使われているそうで、なかなか野生馬に会いに行く暇もないらしい。可哀想にな。
そしてミカエル様がベルトラント様と交代で子爵領にいるらしいが、彼も野生馬にはまだ触れることすら出来ていないそうだ。
これはかなり驚くべき事だがベルトラント様は野生馬に乗れるらしい。特に苦労もしてなさそうだったと婆様の手紙にはある。
その事にナル兄ちゃんもミカエル様同様、かなりショックを受けていたそうだ。
伯父の話によるとベルトラント様のお母上の実家は今は伯爵家だが、その前は公爵家だ。数代前に北の王女が嫁ぐにあたり公爵家に陞爵された家門だったそうだ。だからベルトラント様のお母上は淡い金髪だったんだ。
やはり野生馬は人を乗せるのに外見を見ている気がする。あとは…断定できないが治癒魔法や緑の魔法なんじゃないだろうか?
そして女神様への信仰心か?しかし今は西の国に他国の神馬の子孫がいる不思議な状況だ。西の女神への信仰心は関係あるのだろうか?野生馬達は人の心や本質を見抜く。恐らくどの神と言うより純粋な信仰心に気付くのかもしれないな。
東の伯父からも手紙が届いた。
現在、絵本を増刷中だそうだ。とりあえず5000冊ほど出来上がったらこちらに本と共にやって来るそうだ。それが夏前の再来月頃になるそうだ。その頃なら北の国王も帰国していて落ち着いているはずだ。
そしてフィリップ様と、従姉妹のガブリエラ様は婚約した。
伯父の連絡を受け二番目の伯父が頑張ったらしい。長女の結婚を諦めていたそうだから尚のこと、フィリップ様を速攻でロックオンしたそうだ。
挙式は年内にと聞いたが、懐妊が先になるのでは?とも思う。なんせお二人は王城内で既に同棲を始められたのだ。どちらにせよ、めでたい事だ。
そしてリリベルは困った事になっていた。
学院のお昼時になると食堂で、新入生を始め令嬢達に毎回、囲まれるのだ。いつぞやのザック殿下のように追い回される事まである。
それも恐らく“美し過ぎる侍従”の第三弾が発売されたからだ。
こうなると令息の格好はマイナスにしかならないが、リリベルの髪はやっとショートボブくらいで、まだ髪留めすら似合わない。
まあお昼時の令嬢問題はザック殿下のサロンにお邪魔することで解決したが、問題は髪の毛だ。夏までに令嬢に戻れるのか?
夏休みまではあと2ヶ月だ。肩に付く長さには…ギリギリか?!
まあ何とかなるかとリリベルはとりあえず、北の国王の来訪に集中する事にした。