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“すでに相思相愛の二人の仲に割り込もうとするマリアンヌ!マリアンヌの魅力と想いに未だ気付かない第三王子!そして、そんな王子を切なそうに見送るマリアンヌ!”
シャーロットは一人、目を輝かせ、心踊る気持ちで3人のやり取りを見ていた。
これだわこれっ!これがシャーロットの愛して止まない学園物だ!未だにどちらがヒロインで悪役令嬢なのか分からない。
だが最早どちらでもいい!今後、この美味しい展開を生で、しかも近くで見れるのかと思うと、本当にリリベル嬢の側にくっ付いていた甲斐があるというものだ。
思えばヒロインだと信じた子爵令嬢は、いつだってシャーロットの斜め上を行く令嬢だった。能力もチートと言えばチートだが主に恋愛外で人を惹きつけるだけじゃなく、髪さえ切って令嬢達まで虜にした。
生徒会や学院内の令息達の中では、もうリリベル嬢の事は恋愛感情なんかでは見てはいけない飛び抜けた存在になってしまっている。
彼女を恋愛対象として見れる男性は最早、どのような身分の男だとしても自分に自信のある、真の実力者だけだ。それはそれで美味しいが、ここでマリアンヌの登場は、新たな展開を求めていたシャーロットにとって何より美味しいエッセンスだった。
これからの三人が楽しみだ!
シャーロットはスキップしたい気持ちを抑えながら学院を後にした。
「ちょっと!ダイアナさん、シャーロットさんがスキップされてるわ。リリベルさんに何かあったのかしら?」
「あら。生徒会が終わったのね。本当!スキップされてるわ。私が思うに…きっとリリベルさんと殿下の間に強力なライバルでも現れたんじゃないかしら?」
「ええっ?ライバル?そもそもリリベルさんは殿下のお守りでしょ?ライバルなんて現れたら喜んで、その座をお譲りになるんじゃないかしら?」
「それもそうね」
シャーロット嬢の抑え切れていないスキップは、しっかりカフェでお茶をしていた令嬢方に見られていた。
王城の温室は、やはり見事だった。
また何か南国フルーツを増やしたのか!?見た事のない木や花が植わっている。さすがのリリベルも温室がないと育てられない植物だ。リリベルは辺りをキョロキョロ見回しながら中を歩いて行く。
「リリベル嬢、そこは段差が危ないぞ」
リリベルが足元を気にせず歩くので、さっきからザック殿下が心配して下さる。
「仕方がないな〜」見かねたザック殿下が手を出してエスコートして下さった。
令息姿になってからは久しぶりだ。と言っても、殿下は律儀に馬車の乗り降りの時も、この格好でも手を貸して下さるのだ。
さすが王子様だ。
「森の中なら大丈夫なんですけど」
「その言い訳も意味が解らないな。ああ、でも今は好きなだけ上を見て歩け」
「ありがとうございま〜す。って殿下!あれグアバじゃないですか!」
「分からん」
殿下は温室の南国コーナーを抜け北国コーナーに進んで行く。
中で温室担当の庭師さんが待っており殿下とリリベルに挨拶をされ、リリベルを北国コーナーの端の一角に案内する。
そこには王妃様に処分されたはずの青薔薇が、まだ何株も残っていた。
「これって?!」「そうだ。母上の青薔薇だ」
「処分されたはずでは?」
「ああ母上が何株か植木鉢を割って処分されたが、残りはこの庭師に頼んだんだ。しかし庭師は青薔薇を処分する事に心を痛めて、処分できずに、まだここに残していたんだ」
リリベルが青薔薇を見ると、庭師によってきちんと世話をされているのが分かる。それに蕾をつけ始めていた。これは処分できない庭師の気持ちも分かるな〜とリリベルも思った。
「母上はリリベル嬢に母上が残した株を渡したんだろう?だから残りの株もリリベル嬢が引き取れないかって庭師が言うんだ」
庭師さんがリリベルに頭を下げる。
リリベルが王妃様に託された青薔薇は、実は子爵領に帰った時に祖父に預けて来た。青薔薇は寒冷地に適した薔薇で暑さに弱い。
だから年中、気候が穏やかで夏でも涼しい子爵領が適していたのだ。
リリベルも王都では寮だったし面倒を見切れる自信がなかったが、今なら伯父の侯爵家にいる。恐らく伯父に依頼したら協力してくれるだろう。
これ以上、青薔薇を処分するのは可哀想だ。植物には罪は無い。
リリベルは青薔薇を引き取る事を前提に伯父に許可を得ると説明すると、庭師さんは喜んで下さった。
と、その時、ザック殿下の侍従さんが殿下を呼びに来た。
急ぎの用事の様だが、何とルト兄まで一緒にいてリリベルはビックリする。
「ザック様、こちらにいらっしゃったのですね。王太子殿下が急ぎの用だそうで、おや?リリベル嬢もご一緒でしたか」
「リリベルも一緒にいたのか。それは好都合だ。リリも殿下と共に来い」と兄が言った。
やっぱりお城に来たら王太子から逃れられないじゃん…。
リリベルの気分は一瞬で闇落ちした。