151
その頃、王城では議会が大混乱していた。
「何だと!北の隣国が我が国の大臣の訪問を断ってきただと!?」
「何故だ?貿易を再開させたくないのか?」
「どういう事だ!」様々な重鎮や貴族達の怒声が飛び交う。
「皆様、お静かに!」議長が促す中、外務大臣が
「北は我が国からの訪問を断ってきただけで、貿易再開の意思はある。しかし」参加者、全員が静まり返り息を飲む。
「しかし、北側は我が国からではなく、北の国王自ら我が国を訪問する旨の通達をしてきた」
その発言を受けて更に議会は混乱に見舞われる。今まで北の国王が動いた事は、ほとんど聞いたことが無い。東の国への訪問も無いはずだ。それなのに一体どういう事なのか?!
議長が再び議会を静かにさせ、宰相が
「我々は北の国王の受け入れを承認する事に決定する。皆、異議は無いか?」と問い、そして「現国王は王妃様の兄君に当たられる。受け入れは来月だ。各部署、部門、関係者は歓迎の準備を」
と言って議会は終了した。
「王太子殿下!」
「ああマレシアナ。面倒な事になったな。まさか北の国王が我が国の訪問を望まれるとは」
「本命は…」
「ああ、もちろん国交と貿易の再開だが、子爵領の野生馬か子爵家の者達か、恐らく妹である母上に…ただ会いに来るわけではないだろうなぁ」
「もし子爵領に行きたいと仰ったら?」
「断ることはできないだろう。途中にヤツらの隠れ家だった屋敷がまだあったな?そこを手入れさせて使えるようにしよう。あとは侯爵家を通じて子爵家にも連絡をさせよう」
「そうですわね。そう致しますわ」
「ああ、そうだ子爵家とのやり取りはアイザックに任せるか。どうせ子爵令嬢が一緒に学院にいる」
「ええ。ではそのようにお伝えしましょう。令嬢は隠す事より、巻き込んでしまった方が使えますから」
「そうだな。子爵領の事なら自ら動くであろうな」
「リリベル嬢、この後、少し城に寄れないか?」「行きません」
「…即答だな。だが、その頼みがあるんだ。兄上には会わないようにするから」
「ここでは話せないのでしょうか?」
「ああ実は庭師からの頼みで、また温室に来て欲しいんだ」
「そうですか…」リリベルは考える。
ザック殿下が温室をエサにリリベルを騙すことは考えられない。もし王太子に頼まれての事なら、ザック殿下の様子で見抜ける自信がリリベルにはある。
今のザック殿下は嘘を吐いている様子もないから、本当に純粋に庭師の依頼なのだろう。なら行ってもいいか。
「分かりました。侯爵家の御者に王城に寄ると伝えます」
「ああ俺も一緒に行こう」ザック殿下とリリベルが皆に帰宅の挨拶をして共に生徒会室を出るのを見て、マリアンヌが声を掛ける。
「あのっ第三王子殿下!私もご一緒できないでしょうか?」
「悪いな。マリアンヌ嬢、今日は私用なんだ。また次の機会に。あと私の事はザックで良い」と殿下は仰り、リリベルを伴い出て行った。
ガッカリした様子のマリアンヌに周囲の役員が声を掛ける。
「心配する必要はありませんよ。マリアンヌ嬢、ザック殿下とリリベル嬢はそんな間柄ではありません。リリベル嬢は1学年からの側近なのでザック殿下の私用に立ち入る事も多いかもしれませんが、恐らくいつも色恋とはかけ離れた内容である事が多いですよ」
「お気遣いありがとうございます。気にしないことにします。リリベル嬢は生徒会長ですし、ご相談されたい事は多いですよね」とマリアンヌは気にしていないように返すが、心では…
「そんな事じゃない。少しでも2人の距離を離したい」
という気持ちで一杯だった。