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入学式当日。
在校生も会場の後方で式に参加する中、入学式が始まった。
昨年のこの時は、リリベルは学院長のお言葉辺りで眠気と戦っていたが、今年は学院長の話の次は自分の出番だ。まさか自分が代表挨拶をする側に回るなんて、あの時の自分は思ってなかったよなと考えていたところで出番が来た。早い!
学院長、今年のお言葉短くないですか?
でも幸いマレシオン様のお陰でしっかり準備できたしねと、リリベルは覚悟を決めて壇上に登壇する。
すると会場のあちこちから黄色い歓声が上がる。
そういえば昨日、美し過ぎる侍従の第三弾本の発売予告が書店や劇場でされたのだった。
伯母達がご機嫌で報告してくれたっけ?さすがに発売はまだ先で安心したけど、余計な侍従効果だな。でもまあ取り敢えず歓迎挨拶を終わらせる事が先決だ。
リリベルは無難に挨拶を終わらせたのだが、なぜか拍手喝采だった。去年の生徒会長の挨拶の時も、こんな感じだったっけ?
リリベルが壇上から降りると、次に新入生代表挨拶だ。
そこには公爵令嬢であるマリアンヌ嬢が登壇して来た。
そういえば彼女の名前は学力試験のトップにあったなと思い出す。さすが公爵令嬢だ。マリアンヌ嬢のお父上は公爵家当主の兄として、まだ公爵家に籍があるそうだ。
だから彼女も公爵令嬢という扱いらしい。公爵家は王太子妃も出しているし、恐らくこの公爵家が筆頭と言っていい程、今、一番力のある家門だろう。
無事に入学式も終わり、在校生は教室に戻る。
明日からはまだ午前中だけだが、先に必須教科の通常授業が始まる。昨日、履修届けを出したばかりの科目は時間割と教材や教室の確認のみだ。
2学年はクラス単位で受ける教科は必須科目のみで、半分は選択科目だ。1学年より選択の幅もあり、専門的で面白そうだ。
リリベルは神殿の薬草園なども手伝っているので薬草学や、兄に代わって領を守ることになるかもと、領地経営学や法律なども新たに履修した。あまり授業を取り過ぎると自分の時間がなくなるので、リリベルは卒業に必要な単位だけにしている。
そもそも目指している職業も勤め先もないから気楽で良いのだ。
ザック殿下と被る授業も必須以外はほとんど無い。彼も最低の必要単位だけのようだが、彼はお城でも、きっと王族の教育など忙しいのだろう。それに既にほとんどの事を学んでいそうだ。
リリベルが選択教科の時間割り表を見ていると、シャーロット嬢が
「リリベルさん聞いて下さい!なんと私、1組になれたから、ご褒美にお祖母様が没収していた小説を返してくれたんです!」と嬉しそうに仰った。
小説?そう言えばシャーロット嬢のお祖母様は“美し過ぎる侍従”の小説を健全ではないと、彼女から没収したんだっけ?と思い出す。
あんなに学院祭の朗読を成功させていたから、すっかり忘れていたな。
「そうですか。それは良かったです」ハッキリ言ってどうでも良い。
「でも小説が返ってきたら、すごく読んだ後があって…」それは?
「角っこが折ってあったり、紅茶の染みが飛んでたり、お菓子を食べながら読んだのか、チョコとか油の手の跡があって、ちょっとビックリしたんですよね」
それは多分、めっちゃ読んでるな。
「お祖母様を問い詰めたら、13禁なら第三弾本も買っても良いって!」
誤魔化された上に、婆さんも読む気だぞ。
「しかも、次の休みに舞台にも連れて行ってもらえる事になって!今、すごく感激しているんです」婆さんもハマったのか…。
舞台は3ヶ月公演の予定だったが公演延長が決定していて更に2ヶ月延びた。
その後は劇場の他の公演が決まっており、秋からは王立歌劇団のオペラも始まるので、侍従の劇も終わる予定だ。
その頃はリリベルも髪が伸びて制服も戻すし、もう侍従的な目で見られる事も無くなるかな〜とちょっと考えた。