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リリベルは原稿をある程度考え終えたので、新しい植物用のプランターの準備を始める。
春の野菜は何を植えようかな?屋内だから何でもいいな〜。
キャベツ…イチゴは皆が喜びそうだ。イチゴにしようかと思ったところで、ザック殿下が資料室でリリベルに手招きをしているのに気付く。
「何だろう?もしかして新役員の選定に加わっていないから怒られるのだろうか?一応、会長だしな」
と思いながら生徒会室につながる資料室まで行くと、殿下が
「今朝は教室でリリベル嬢に失礼な事を言った。それを詫びたい」と仰った。
何の事だろうか?と今朝の事を思い起こす。
会長だと皮肉った事か?それとも私の事を重いと暗に言った事だろうか?と考えていると
「侯爵令息達にあの発言はリリベル嬢に対して失礼だと言われたんだ。確かに女性に対して言う事ではなかった。例えリリベル嬢が令息の格好をしていたとしてもだ」
成程、令息達はちゃんと殿下にとって失言だと思われる言葉を注意してくれたのか。彼らは1学年の時から信頼関係を築けていたのだなと安心する。
「リリベル嬢の試験のダンスを見た時、これは首席は無理だなと感じたんだ。だから覚悟はしていたんだ。今朝は、ちゃんと挨拶して、首席おめでとうって言おうと思っていたんだ。でもまた男装姿を見てしまったら、つい嫌味を言いたくなってしまった。本当に済まない」
殿下の言葉はちゃんとお詫びの気持ちがこもったものだった。
以前のゴメンという軽い気持ちのものではなかったので
「いいですよ。次回から気を付けて下さい」とだけ伝えた。そもそもそんなに気にかけてもいなかったし。
でも殿下達は昼食も一緒を断られたから、女性陣は相当ご立腹なのでは?と心配したらしい。リリアン様もシャーロット嬢も全く気にかけてなかったが、今後の為にも黙っておく事にした。
リリベルがプランターに戻るとシャーロット嬢が
「リリベルさん、殿下は、もしかして「ヨリを戻そう」とか言ってきましたか?」
と言ってきたが当然のようにスルーしておいた。
リリベルは学院の帰りに王都の街にある神殿に寄ってもらった。この神殿は大神殿とは違って、この辺りに住んでいる住民の祈りの場となっている神殿だ。
リリベルは帰国後、まだ女神様に東の兄神様の事を報告できていなかったので寄ったのだ。大神殿だと色々面倒臭いし、ただ女神様に礼拝するだけなら神殿に大小の規模は関係ない。
神殿では決まった時間には神官様と共に祈り、説法を聞いたり治癒や悩み相談なども受ける事ができるが、それ以外の時間は逆に自由に礼拝できる。
リリベルは神殿の女神像に向かって祈りを捧げる。
まずは日々の感謝から始まり、東の隣国を訪問し兄神様に会ったこと、神様は妹である女神様が元気であるか心配されていた事、野生馬の事など色々祈りとして語っておいた。
神殿には大理石や石膏の女神像が祈りの対象として祀ってあるが、顔の造形はあまり考えられていない。ただ女性で服装などで女神のような雰囲気で作られているだけだ。
色も白以外見たことないなと思いながら侯爵家に戻った。
◇◆◇◆
アイザックは夜、寝る前に自室で東の隣国の雑貨屋で購入したエメラルドの髪留めを見つめ、考え事をしていた。
「何でこれ買ったんだろう?」
結局、リリベル嬢の瞳の色の石は見つけられなかったし、そもそも彼女の瞳の色を探した自分にもよく分からない。
ただ緑だから購入した髪留めも、彼女はまだ髪が伸びていないので使えない。
全てが自分には謎過ぎる行動だった。
ただ髪留めのデザインは王族の自分が見ても、とても良いと思える出来栄えだった。
小さなエメラルドを花のように、いくつも寄せ合わせ、光に当てると角度を変えて寄せてあるエメラルドがキラキラ光って美しく、つい手に取ってしまったのだ。
どちらかと言うとラント兄上の瞳の色だなぁと思いながら髪留めを机の上に置いたまま眠りについた。
そしてその夜、アイザックは夢を見た。
そして目が覚めて飛び起きる、時間は普段自分が起きるよりも少し早かったが、それよりも夢の内容だ。
女神様が出てきたのだ!そして女神様は彼に言ったのだ。
「リリベル嬢が困っていたら、その髪留めを彼女にあげて」と。
「どういう事だ?」と思って机の上に置いた髪留めを見るとエメラルドの色が変わっている?直ぐに窓辺に持って行って確認すると宝石は朝日を浴びてエメラルドグリーンに輝いていた。
アイザックは驚きでしばらく動けなかった。