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リリベルは侯爵邸に着く頃には気持ちも回復していた。
もし沈んだ雰囲気など夫人達に見せようものなら、夫人達が何を仕出かすか分からない。
「伯母様達を心配させずに済みそうです」と伯父に言うと
「気苦労かけるな〜」と溜息を吐かれた。
「だって伯母様達、外国に亡命するとか言い出すくらいならまだしも、城を爆破するとか、王族暗殺計画とか言い出しかねないから」
「否定できんな」
自分だけではなくアイオットまで自分と似たような女性を妻に選んだ。昔にしたアドバイスを、まさか本気で実践するとは思わなかったが、お陰で二人は似た者同士で意気投合している。
丸で本当の親子いや、姉妹のように。
いささか過激な面があるのが玉に瑕だが、母親のせいかアイオットもこういうものだと受け入れている。
エリオットにはかなり反面教師になっているが。
侯爵邸の扉を開けると「リリベルちゃーん!寂しかったわー」と二人して駆け寄ってくる。
嫁はアイオットと領地に帰らなかったのか!?
「あれ?侯爵夫人は領地に行かれなかったのですか?」
やはり同じ事思うよな?リリベルも。
「それがねリリベルちゃん大変な事になっているの」
「え?何がですか?」
「それより早くリビング行きましょう。ナル君帰って来てるわよ」
「ナル兄ちゃんが?」慌ただしく3人でリビングに向かうのを見送っていると
「大旦那様、お帰りなさいませ」と執事が迎えてくれる。
「お前だけだな迎えてくれるの」と言ってしまったのは仕方がない。
「お祖父様、私もいるよ」ジャケットの裾を引っ張る小さな存在がいる。
もう時期5歳になる私の孫娘だ。
北の国の血筋は一切、面影が無いが将来美人になるだろう。
「おぉただいま。お土産があるぞ。兄さんは領地に行ったのか?」私は可愛い孫娘の手を引いて一緒にリビングに向かった。
◇◆◇◆
「兄上、本当にもう秘密なんて無いんだ。彼女はいつも小さい子供に好かれる。滞在中はずっとリリベル嬢は、東の王子、王女達の相手をしていた。俺が見てない時もずっと一緒だったから、その時に何かあったのなら俺には分からない」
「ふ〜ん、そうか」兄上はまだ何か疑っている。
フィリップをもう帰しておいて良かった。
フィリップがいたら、兄は彼の事も問い詰めたかもしれない。フィリップには職務怠慢と言われようが、補佐官と消えていたと言うように指示しておかないと、兄はこの後、フィリップも呼ぶだろう。
「兄上、リリベル嬢の何がお知りになりたいのですか?」
「全て?」「…兄上、まさか」
「ザック!イヤイヤイヤ勘違いしないで!愛しているのはマレシアナだけだ。だけどリリベル嬢は知れば知るほど何か出てくるだろう?」
「兄上は、やはりまだ“緑色のベル”に囚われておいでです。私はもう全部話しましたから」
「アイザック!」
「兄上、そんな事をしていたら『“緑色のベル”に囚われた王太子』という本がそのうち出ますよ!」
「え!あっ逃げられた」
「アイザック殿下も言うようになりましたわねぇ」
「マレシアナ!聞いてたのかい?」
「フフ。王太子殿下はリリベル嬢の全てをお知りになりたいのだとか?」
「ゴメンなさーい」
王太子殿下は王太子妃様に土下座をする事になった。