14
園芸クラブの手伝いをした後、マレシオンは生徒会のメンバーと別れ、殿下と帰りの馬車乗り場まで歩く。
殿下は最近やっと学院内でも側近を持つことを決めたらしくて、マレシオンは安心していた。だが今日はまだ人選が間に合っておらず殿下一人だった。
自分が殿下と同じ学年なら常に側に居られるのだが。自分は一つ上の学年だ。念の為、1組以外にも高位貴族や優秀者を2組、3組にも置いたが、クラスが違っても早く見つけないとなとマレシオンは思って横を歩く殿下を見ると、殿下がさっきから黙り込んでずっと難しい顔をしている。
「どうかされましたか?」と聞くと、殿下が、
「なあマレシオン、土魔法では植物のタネの芽吹きはできないよな?」と仰る。
土魔法は土壌に関する魔法なので、主に土木関係以外の使い方で農業では土地の開拓や土の改良などを行うというのが土魔法の一般的な解釈だ。
タネの芽吹きや植物の育成は神殿が使う治癒や回復に近い。
「そうですねぇ。もしやリリベル嬢が?」
「ああ、さっき撒いたばかりのタネから芽を芽吹かせた。なあマレシオン、今は夏前だから花は普通に多い時期だと思うが、昨年も同じだったか?昨年より学院内に花や緑が多いと思うことはないか?」
「さ、さあ?私はあまり花に興味はなかったので、でも園芸クラブの顧問か学院の庭師なら分かるかも」
「そうだな。明日聞いてみるか。じゃあなマレシオン見送りありがとう」
と言って殿下は馬車に乗って行かれた。私もしばらく殿下の馬車を見送った後、迎えの馬車に乗り込む。
リリベル嬢の姉である聖女様も侍女の時から普通ではなかったという話だが、もしかしてリリベル嬢も?
マレシオンは姉である王太子妃から子爵家の兄妹たちについて話は聞かされていた。上3人に関しては見知っていたが4番目、5番目はほとんど情報が無かった。
なんせ彼らは秘せられた子爵家なのだ。
4番目は今、17歳で学院に入学もせず筆頭侯爵家にいるという。代替わりした当主と最近一緒にいるというから、社交界では彼がそろそろ社交デビューするのではないかと期待の声がある。
そして5番目のリリベル嬢は噂通りの容姿で、どれぐらいの学力があるのか?と思ったが普通レベルの成績結果だった。だが採点した者に話を聞くと意図的に解答を間違えている節もあり、それよりも問題なのが、全ての試験問題の横に、過去にいつ出題された問題なのか日付けが書いてあり、全部確認すると合っていて、解答用紙の余白に、
『過去5年間問題を使い回ししているようです。そろそろ新しい問題を考え直して下さい』と書いてあったそうだ。
どんな令嬢が入ってくるのか?!と思うだろう?
実際に会ってみると大人しい普通の令嬢に見えたが、最近はどうも最初の印象とは違う。
どこか達観していて、殿下や私にも遠慮なく発言してくるようになった。それが結構鋭くて思わず受け入れてしまうのだ。
実はマレシオンは母と姉のせいで強い女性に弱い。大抵の女性は身分的にも自分に強く出ることはできない。しかしリリベルは堂々と発言してくるのだ。
マレシオンは頭を振り、とりあえず姉に状況を報告しなくてはと思った。