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翌朝、伯父の初孫ちゃんにもご対面し、伯爵家の皆様に一夜の感謝と別れを告げて西の国への帰路についた。
道中の本屋で数冊、絵本を買い足した。とりあえず自分と神殿と子爵家の実家の分だ。殿下や他の皆様も数冊購入されていたようだ。
マティアス画伯にも西版の絵本を描いてもらおうか!と思ったら
「大人向けなら良いんじゃないか」と伯父に言われた。
確かに神様の絵本は淡いパステルカラーが似合う。マティアス画伯の色彩だと神様もビックリするかもな。
帰りの馬車はガブリエラ様も加わって5人で賑やかだ。6人乗りでも広くて快適な車内なので、ちっとも窮屈感はないが、お2人は
「2台目の馬車で2人きりの方がいいんじゃ?」と言ったら
「一応、未婚の男女なので」とフィリップ様が仰った。
「何を今更」と多分、ガブリエラ様以外の全員が思っただろうけどね。
大人の恋愛でも初々しくてイイね!と思っていると、フィリップ様に
「あなたは少し老成し過ぎています」と言われた。
失礼な!リリベルだって恋愛初心者だい!何なら初恋もまだだ!って威張れないか。だが妄想は初心者ではないな。あんな小説出しちゃったしな。まあいいか。
帰りの馬車の中で「そう言えば、王家の書庫に入っている時間と外で待つ時間に違いがある」という話になった。
それはガブリエラ様も知らなかった話だったが、ザック殿下がリリベルを待っている間に、第一王子殿下から「中と外とでは時間の流れが違うのだ」と説明を受けたのだそうだ。
しかし、その理由が“神の領域”だから、とかそういう事ではなく、読書をすると時間が経つのが早いので“本好き”が読書の時間をたくさん取れるように書庫の中は時間の流れが遅いんだそうだ。
だが書庫から出たら中より時間が進んでいるので、やはり一般人には意味が無い。「何だそれ?」だ。
今度、神様に、いや司書の伯父に会ったら時間の流れを逆にすべきだと指摘しておこう。
帰りの道程でも辺境伯が迎えに来てくれた。律儀な人だ。
伯爵父娘は顔すら出さなかったので、東の国の最後の夜は辺境伯の領地の宿泊所に泊まろうとしたら、なんと辺境伯のお屋敷に招待下さった。良い人だ。次は、お土産をたんと持って来るね。
東の検問も西の国境の検問所も、行きと同様スルーし、順調に西の国に入る。あと1日で王都に入るという時に、ザック殿下が
「王太子殿下への報告の為に明日は王城に寄ってもらってもいいか?」と聞いてきた。
ガブリエラ様は宰相閣下にも報告があるので、そのまま帰城が良いとのこと。
リリベルも構わないが伯父はどうだろう?
「一応、王太子殿下に礼を言っとくか」と伯父も構わないようだった。
ザック殿下はホッとして「疲れているだろうが済まないな」と仰った。
やはり殿下でも伯父には気を遣うよね。
なんせ東の貴族達も令嬢以外はほとんど伯父が蹴散らしていた。引退しても腹黒は現役なんだなと思った瞬間だった。ザック殿下も感じたんだろう。
◇◆◇◆
「それ気に入ったんだね」「うん」「似合ってるよ」
「本当?ウフフフフ」
「時々、兄上にも触らせてもらってもいい?」
「うん。被ってもいいよ」「えっそれは…」
「王子様になれるよ」「すでに王子だけどさ。でもありがとう」
「いつでも言って」東の王女殿下は金髪になっていた。
リリベルからプレゼントされたカツラを被っているのだ。
王妃様も乳母も侍女達も微笑ましく見ている。
「おおぅ!王女か!?イメチェンか?その格好なら、もしかしたら神が喜ぶかもな。リリベル嬢が帰国して、しばらくシクシクしてらっしゃったからな」と国王陛下が仰る。
「じゃあ慰めに行くか!」王女殿下はその後、神様の慰め係になったのだという。