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国王陛下も王妃様も初めて聞いたのだろう。とても驚いてらっしゃる。
何より彼はまだ10歳だし。
リリベルは「私は子爵令嬢なので王家には嫁げません。それに殿下より5歳も歳上です」と彼の手をそっと離して告げると
「身分も歳の差も関係ありません。リリベル嬢は神様のお心を開いて下さいました。それに、あなたはとても美しいです。私はあなたが大好きです。だから私が15になったら、成人したら、あなたを迎えに行きます!」と仰った。
王妃様は「まあ」と頬を染められ扇で顔を隠し、国王陛下は殿下の肩に手を乗せて
「私は息子の気持ちを尊重するよ。ただ5年後は、あなたは20歳だ。だから息子の事は待たなくていいよ」と仰った。
貴族令嬢は10代で結婚する事が多いが…いやそれ以前の問題でしょ!
東の王族方とは衝撃的な別れとなってしまった。
伯爵邸に向かう馬車の中は静まり返っている。
ザック殿下は絶対、揶揄ってくると思ったのに、なぜかずっと黙り込んでいる。フィリップ様と補佐官様も殿下や私が口を開かないと喋れないかのように黙っているし重苦しい。
伯父が「またタラシ込んだのか」とポツリと言った。
リリベルは思わず「10歳の子にそんな事しません。しかも今はこんな格好なのに!」と言うと、ザック殿下が「だから彼は本気なんだろ」とそう言った。
「リリベル嬢、第一王子殿下はまだ立太子されておりませんが、とても聡明で優秀な方だと評判です。だから間違いなく近い内に彼が王太子になられるでしょう。彼に選ばれたのであれば王妃です」と心配そうに補佐官様が仰った。
「無いですから!絶対に第一王子殿下とは結婚しませんし、王妃にもなりませんから!」と言うと、
「リリが王子の成人より先に結婚すればいい」と伯父が簡単に言うが、第一王子殿下との結婚と同じくらい、リリベルにはまだ結婚自体が想像も出来なかった。
リリベル達は王家の馬車で出て来たので、伯爵家で一旦馬車を降りて、身分を隠して街に出る事になっている。
伯爵邸に到着すると、夫人と思われる方とご嫡男とその奥方らしい方々が使用人と共に出迎えて下さった。
「ようこそ伯爵邸に。まさか伯爵家で西の第三王子殿下をお迎えできるとは思いませんでした。特別な事は何もできませんが心より歓迎致します」と夫人がザック殿下にスカートを摘み挨拶をし、伯父にも「お義兄様もお久しぶりです」と挨拶をされた。
ザック殿下が「伯爵夫人、世話になる。そして伯爵が“神の司書”に選ばれた事、誠におめでとう」と仰ると、伯爵夫人は気丈に礼を返したが、その後は感涙で言葉を発せなくなり侍女に支えられた。
伯父も「夫人、久しぶりだな。長いこと弟を支えてくれて本当に感謝する」と言うと夫人はもう立っていられなくなって両脇を侍女に支えられて中に戻って行かれた。
ご嫡男様が「母が申し訳ない。代わりに私が」と屋敷の中にご案内下さった。
我々が「直ぐに街に散策に出る予定です」と告げると、直ちに各部屋に案内して下さり、伯爵家の侍女さん達が着替えも手伝って下さった。
準備を整えてロビーに集まると、ご嫡男様が集まった皆を見て
「案内はガブリエラ殿が?従姉妹殿は、もう一年近く東に滞在しているから大丈夫かな?」と仰った。
ガブリエラ様も「はい。お任せ下さい。」と慣れていそうだ。
ご嫡男様は「本当は私も街案内に加わりたいが、父が司書に選ばれてしまったから、これから色々と対応しないといけない。母があんな状態だからね」と仰り「夕飯はぜひご一緒しよう。散策を楽しんで」とお見送りして下さった。