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ザック殿下はリリベルを見つめている。
でも怒っている感じでもない。どちらかというと自責の念?ご自身を責めている?恥じている?リリベルが浅慮だと言ったから?でもその通りだ。
幸せに生きたかもしれない人を被害者扱いしてはいけないのだ。 被害者だと他人が判断するには、それなりの材料がいるものだ。
「リリベル嬢、どうしたらそんな風に考える事ができる?どうしたらもっと浅慮ではない考えに至れるのだ?俺には分からない。ただ表面的なものにしか気付けない。それって王族としてヤバいだろ?俺はどうしたら…」
ザック殿下は力なくソファに腰掛け項垂れてしまった。
ヤバいな。リリベルはザック殿下の核心に触れてしまったのだ。恐らく彼の最大の悩みなのだろう。
いかんせん彼は王子の身分で周りには察知能力の高い人達が多かった。
それに恐らく大事に育てられた。だから純粋なんだ。人の裏を読んだり、悪意に慣れていない人なのだ。
残念なことにリリベルはこういう時にかける上手い言葉が分からない。
でも彼は王子だ。だから普通の人とは違うことができる。
慰める事はできないが、どうすればいいかは伝える事ができる。
でもそれを決めるのはザック殿下自身だけど。
「殿下、自分で出来ないなら、出来る人を使えばいい。あなたは王子なんだから上に立つ人でしょう?あなたが今、出来る事は自分に足りない能力を持っている人を自分の周りに置く事よ。それが側近でしょ?」
「なら俺は足りない人間のままでいいのか?」
「殿下、どうして1か100かの選択しか持たないの?1〜100までの間には2〜99までの数字があるのよ。殿下がもし今が15だったとしても、これから数字を上げる努力をすればいいし、足りない数字を仲間で補って100に近付ければいいの。大体、一人で100なんて絶対、そんな人いないから!」
「俺はお前が100に見える」
「はあぁ!そんな訳ないでしょ。100だったらここに居ないわ。多分、全てを予測して子爵領にいたと思う」
「お前って、そんなに子爵領好きなの?」
「そうよ。領内以外での煩わしい事は全て嫌なの。大体、神様だって100じゃないわ」
「えっ神様も?」
「そうよ。だって北の女神は最低でも2回は夫に逃げられてる。東の神は相棒の馬が失踪しただけで300年も引きこもりよ!たくさんの人に心配かけてね。そんなに大事な馬なら自分でも探しに行けばいいのに」
「リリベル嬢、そんな大きな声で言ったら聞こえるぞ!この国で東の神の悪口はマズイ」
「ほら私は悪口を言う女なの。しかも神様の事もね。ちっとも100じゃないでしょ?」
「そうか。それにお前、怒りの沸点がいつも低いな。いや不満が多いのか!だからいつも怒ってて…でもそれがパワーになっていて凄い」
笑いの沸点の低い人に言われた!
「殿下、それって褒めてんの?貶してんの?何かあまり良い言われ方じゃないわ」
「あと何で俺は15なんだ?」「ん?だって15歳だから」
「100歳まで生きるのか?」
「いいじゃん。キリの良い数字で。65とか現実的な数字はちょっと」
「確かに。それにお前は15じゃないわ。30くらい?」
「殿下ヒドい!私を倍も年増にして」
「だったら1〜10にしよう。俺は今は1だけど人を足して10にする。100だと目標が遠過ぎる気がする」
「うん。それでいいと思う」
良かった。いつもの殿下に戻った。