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「リリベル嬢、今朝はフィリップが来なかったんだ〜」
王城の客室で朝食を食べながら話をしている。
「そりゃあ朝までお休みと私が言っておきましたから」
「え?何で勝手に?」
「ザック殿下、昨晩の事覚えておられないのですか?」
「あっいや…ちゃんと小説配るよ」
「令嬢に絡まれて困ってからでいいですよ。それ用の本です」
「うん。分かった」思い出したか。自分でどうにかしてね。
リリベルはお城の侍女に案内されて、殿下方のお住まいに向かう。殿下方3人はまだお小さいので、一緒に王妃様の宮にお住まいだ。
もし西と一緒の仕組みなら今後、王子宮や王女宮などに住まいを変えていくのだろう。
お部屋に着くと、早速、3人に囲まれる。いつもなら上のお二人は王族教育を受けられるそうだが、今日はリリベルが来るので急遽、お休みにしたそうだ。休んでまでリリベルと遊ばなくてもいいんだけど。リリベルも暇じゃない。
でもせっかくなので絵本三昧の兄妹に聞いてみる。
「北の女神と東の弟神、西の妹神を知っていますか?」って。
3人は目を輝かさせて「知ってる!知ってる!」と連呼した。
だが「髪の毛!髪の毛触りたい!キラキラ!」王女殿下がそう仰った。
乳母さんが止めてくれたが、リリベルは構わなかった。逆に短いから申し訳ないな。少し前なら腰くらいまで伸ばしてたのにと思う。
王女殿下は床に敷かれたラグの上に座るリリベルの髪に触れながら
「わぁ光の糸みたい!」と仰った。幼くても表現力が素晴らしいのは読書の力だろうか?
王女殿下は「スゴイ、キレイ」と言いながら飽きる事なくリリベルの髪に触れている。
横で見ているだけの二人の王子にも「宜しければ、お二人も触ってみますか?」と聞いてみると
「令嬢の髪に触れる訳にはいかない」と第一王子殿下が仰った。第二王子殿下も頷いている。今朝、王妃様からリリベルが女性である事を聞いたのかもしれない。
幼くても王子様なのだな。だがリリベルは
「今はこの格好なので大丈夫ですよ」と言う。
殿下達は躊躇したが好奇心が勝ったのだろう。恐る恐るリリベルの髪に触れる。
「ああ本当にスゴいな絹糸を実際に見た事はないが、絹糸とはこういう物を言うのだろう。光に当たり煌めいている」王子の表現も凄いな。
「手触りも良い。ずっと触れていられる」
今のリリベルの状況を誰かが見たら驚くだろう。3人の子供がリリベルの頭をいじくり回しているのだ。しかもこの国の王子、王女殿下だ。何だか可笑しい。
第一王子殿下が髪を光に透かしながら
「北の姉神は戦いの女神だ。強い女神だったから、強い魔物の多い北の大地を与えられた。だから相棒も戦う馬スネイプニル。姉神は弟と妹の地に魔物が行かないように今も北で護っている。だけど寂しがりやだ。それで女神の夫が選ばれる。夫は20年彼女に支える。支えた後は王子を抱えて国に戻る。その王子が次の王になる」
次に第二王子殿下がリリベルの髪を指に巻きながら
「西の妹神は〜」「ちょっと待って〜メモしたい!」
「大丈夫です。お嬢様、私達が」と乳母さん達が仰って下さる。
「西の妹神は心優しい慈愛の女神。心美しく頑張る人が大好きで応援せずにはいられない。民の女神への信仰心が彼女の力の源。だから聖女を選んで力を集め人々を悪い物から守っている。相棒は純潔の証のユニコーン。妹は寂しがりの姉の心も癒したい。でも土地を越える事は父神に禁じられている」
凄い!これ全部覚えているの?彼らは子供には難しい言葉も歌うように話してくれる。
王女殿下がリリベルの短い髪を一生懸命三つ編みしながら
「東の弟神は知恵と技術の神。たくさん図書館を作って人々がいつでも知恵を取り出せるようにしている。神は彼の司書を選び、時々、司書を通して彼の技術を民に伝達する。彼の相棒は伝達が得意な空飛ぶペガサス」そこで止まった。
そうか、その後、神はペガサスを失って書庫に篭ってしまうんだものね。
きっと東の国民は皆、悲しんだのだろう。大トカゲを食べる程に。
あの手紙は伯父に預けてあるから、あの後、素面に戻った伯爵と陛下に伝わっているはずだ。
カスタネットが助けた馬がペガサスだといいのにと心から思う。そうだったら東の神だけではなく、国民の希望にもなるだろう。
だがスネイプニルと交わっちゃったけどね。
性格もそっちに寄ったけど大丈夫かな?