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「皆様、お見苦しいところをお見せしましたわ。でも我が国では神から司書が選ばれる事は長い間、何よりも叶えたかった悲願なのです。それが叶うまであと一歩のところなのです」
「王妃殿下、あと一歩とは、まだ何か懸念が?」とザック殿下が尋ねる。
「はい。怪我を負ったペガサスがなぜ神の元に戻らなかったのか?という事が、まだ解明できていないのです。恐らく西の山に逃げ延びたが、その先で何があったのか…」
西の山?何か引っかかる。伯父も何か気付いたようだ。
「それでペガサスはもちろん白馬なのですかな?」
「恐らくそうですわ」「性別はあったのでしょうか?」
「?それは神に聞いてみないと分からないですが、神はよく“私の娘”と仰っていたそうです」
雌だ!!「伯父様、もしかしたら同じ事考えておいでですか?」
「リリベル、あの手紙は今は持ってないよな?」
「実はここに」リリベルはジャケットの胸ポケットから、父からの手紙を取り出す。
伯父はリリベルから手紙を受け取り
「弟よ、これを読んでみてくれ」と伯爵に渡す。
「ああぁ〜ベルモントォ!私に宜しくなんて!そんなっ。あんなに虐めたのに可愛いヤツ」
「…伯父様、伯爵にも飲ませたんですか!」
「あぁゴメン。こいつも壊れるとは…」
ザック殿下が伯爵から手紙を奪って読み始める。
そういえば手紙の事はザック殿下には言ってなかった。どうせ子爵家の話だったから。
「リリベル嬢、これは妃殿下にもお見せしても良いか?」
「はい。大丈夫です」ザック殿下が手紙を王妃様に渡そうとすると、王妃様はリリベルを見て
「リリベル嬢?そちらの子爵家の方は令嬢なのですか?」
わっ!そっちに食い付いた!
「令息なのに令嬢?リリベル嬢は王子様?」壊れた!
「伯父様!王妃様にも飲ませたの?!」
「申し訳ありません。私がつい」「補佐官さまー!!」
ここで混乱の内に晩餐会は終了した。
冷静に見えた王妃様も侍女に回収され、伯父は城の侍従と弟の伯爵を抱え消えて行った。
ザック殿下が「リリベル嬢、とりあえず、また明日話をしよう。今日は仕方がない」と仰るが、
「ザック殿下!明日、私は殿下方と遊ばなければなりません。お一人で頑張って下さいね」と言うと
「えっ!?リリベル嬢、明日は王妃様のお茶会じゃなかったか!?」
「大丈夫です。多分もう噂が広がっているはずですから、頑張って下さい」
「えっ噂って何?何の噂?」散々、人が令嬢を追い払ったのに、どんな噂が立っているかの見当もつかないのか?
リリベルはガタンと席を立ち、侍女に預かってもらっていた鞄から5冊ほど小説を取り出す。
「明日、これを茶会で配って下さいね」
題名を見てザック殿下も察したようだ。無言で頷いている。
そして宰相補佐官様にもお仕置きだ。
「フィリップ様!」
壁側に立っていたフィリップ様がビクッとしてリリベルを見る。 まさか自分にも何かが降りかかるとは思っていなかった顔をしている。まあ彼には何も罪は無い。でもお仕事してもらう。
「ザック殿下は側近の私がお部屋に付き添いますので、フィリップ様は、そこの補佐官様をお願い致します」
両者、えーっと目を見開いて驚いている。
「補佐官様はお酒に酔っておいでです」
「あの従姉妹殿、私は「任せましたよ!フィリップ様!朝まで大丈夫です」とリリベルはフィリップ様にサムズアップして、放心中のザック殿下を引きずって護衛騎士と客室に向かった。