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国境を抜けても、まだ王都までは4日近くかかる。
途中の街で宿泊するが、東に入ってから初めての街で、この国の検問を受ける。
この街は辺境伯の領地で、西からの人を受け入れ慣れていて宿泊所もたくさんあるらしい。
しかし、さすが王家の馬車だ。
なんと辺境伯が直々に出迎えに来てくれて、検問もスルーで次の街まで護衛までしてくれると言うのだ。
更に信頼できる宿泊所も紹介してくれるそうだ。
そして街の中も西とほとんど変わらなかったが、我々の国のような神殿がほとんど無く、礼拝をする人もいなかった。その代わりに町には必ず一つは図書館があるのだそうだ。
なるほど知恵の国なんだなとリリベルは感心した。
辺境伯の領地から次の街は、治める貴族が違うので辺境伯とはお別れだ。
辺境伯はまだ領主になって数年の若者だったが、今晩、泊まる予定の街の伯爵家には「年頃の娘がいるから気を付けて」と言われてお別れした。
辺境伯から紹介してもらった宿泊所は少し古いが、とても信用できる経営者らしい。
宿泊所に到着してお風呂から上がると、何やら建物の外が騒がしい。どうやら領主の伯爵が殿下に挨拶に来たらしい。
娘付きかな?と思って着替えて殿下の元に行こうと廊下に出ると、フィリップ様と宿泊所のメイドがお茶の準備をしていたのでリリベルも手伝う。
ワゴンを押して殿下の部屋の応接室に入ると、伯父を背後に従えた殿下が伯爵と対峙していた。
やっぱり娘付き!辺境伯様、情報有難う。
令嬢は17、8歳くらいか殿下より少し年上に見えたが、普通に美しい令嬢だった。
伯爵も令嬢も殿下を見てニコニコだ。まあ殿下は外面も外見も一応王子様だからな。
でも伯爵は殿下の後ろの伯父を見て「ひっ腹黒侯爵!」と言った。伯父様は一体どこまで腹黒を広げているのだろうか?
「伯爵よ、腹黒とは酷いな」「引退したのではなかったのか?」 「そうだよ。だからこっちにいる弟に会いに来た。ついでに用事でいらした殿下に便乗させてもらってな」
オヤジ達が睨み合っている横で、令嬢は微笑を浮かべ座っている殿下にハートを飛ばしている。
ちょっと令嬢!そこの王子は見てくれだけだぞ!お子様だけどいいのか?と思ったが、そう言えばリリベルは殿下の令嬢避けだった。
任務を開始しないとだな。
「ザック様、お茶をお持ちしました」と言ってリリベルは令嬢に微笑みかける。ついでに伯爵にも微笑んどく。
さあリリベルのスマイルはお値段以上だぞ!
令嬢は素直な方だ。早速、冷えた微笑の王子ではなくリリベルに矛先を変えてくれた。
「まぁ。まるで妖精のような令息様」
そうそうよく妖精扱いされるんだよ。よく知ってるね。だが明日も早い。睡眠時間を確保させて頂くよ。
リリベルはザック殿下の隣に座り、
「ザック様、もう寝ましょう?僕、もう眠い」と言って甘えるように殿下に腕を絡めた。男爵令息の技をお借りしたよ。
リリベルは上目遣いで、そっと令嬢を見ると、令嬢は目を見張って「あの!私、申し訳ありません。第三王子殿下が、その…令息の恋人をお連れになっているとは知らず…」
うん令嬢、正しい状況判断だ。
ザック殿下!あなたは微笑が引きつってますよ!修行が足りとらん。
「伯爵、悪いがもう退散してくれ。甥が眠たがっているだろう?」伯父様ナイスフォローだ。
殿下は後でお説教だな。
そして、わずか10分で伯爵親子は帰ってくれた。
リリベルは別れ際、令嬢に小説をプレゼントしておいた。図書館がたくさんある知恵の国だから、きっと読んでくれるだろう。
「美し過ぎる侍従に囚われた王太子」13禁バージョン。
こっちにも販路を拡大できるといいな。