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旅は続いている。
国境近くなると建物も何もないので外を見ても殺風景で暇になる。そうすると、どうしても会話をする流れになるのだが、ザック殿下がやはり
「フィリップはラント兄上の侍従をしながら学院にも通ったのか?」
と聞いてきた。でもフィリップ様は気にせず、
「はい。叔母がまだラント殿下は小さいので乳母が面倒を見るから、私にはしっかり学院で学生生活を満喫して欲しいと、寮に入れて下さいました」
そうか寮に入れば学院が終わった後も自分の時間が持てる。
「生徒会長をしてたなんて、フィリップも優秀だったんだな」
「それはラント殿下の侍従として恥ずかしい成績は取れませんから。それに何より首席を取ると叔母もカテリーナ様も喜んで下さったのですよ」
「そうか。それはやり甲斐があるな。俺は王族だから優秀で当たり前だと思われる。それがプレッシャーだった。特に兄達が優秀だったからな」
確かに王族にはそういうプレッシャーはあるよね。
「それに父上も母上も何も仰らなかったが、公爵が兄上と姉上には『お二人は優秀でないとご両親が世間から非難されますよ』と、よく言っていて怖かった」
公爵めっちゃ言いそう。
その非難する人の第一人者であろう伯父はさっきから黙っていたが「第三王子殿下には?」と急に聞いてきた。
「俺は、俺には公爵は言ったことはないな。俺が末っ子だからなのか、最初から見限られていたのかは分からないが」
え!?公爵がザック殿下を見限るなんてことある?自分の息子を側近に置いているのに。とリリベルが思っていると、伯父が
「第三王子殿下は王家に多い容姿をお持ちでらっしゃる。居られるだけで王族なんだと存在感を放つ。だから公爵も何も仰らないのでしょうな」と言う。
「容姿でそんな差別を受けたくないな。それに俺はむしろ一人だけ期待されていない気がして悔しかった。今でも何か国に、兄や義姉の役に立てることはないかと常に思っている」
と殿下は仰った。
「殿下、向こうに国境の建物が見えてきましたよ」
と御者が外から声をかけてくれる。
護衛の騎士のリーダーに王太子殿下の書状を持たせて、先に検問所まで馬で走らせる。
すると行列していた馬車が動き始め、王家の馬車がそのまま走り抜けられるように道を開け始めてくれた。
ザック殿下は窓から顔を出して、道を開けてくれた馬車の人達に手を振り感謝を伝えながら検問所を抜ける。
そして国境を守備する騎士にお酒の樽を渡し、労いと感謝を伝えて検問所を抜けた。
ここからはもう東の隣国だ。リリベルにとって初めての外国だ。言葉も文化もほとんど同じだが、この国には北と同様、聖女はいない。
我々の国の女神様が慈愛と癒しの女神だとすれば、こっちの国の兄神様は知恵と技術の神なのだと言うが、一体、どんな神様なのか。
「いや〜やはり王族の権限は紙切れ一枚で素晴らしいな!」
と伯父がご機嫌で言った。
「たまにしか使わないからな。俺も姉上が嫁ぐ時に初めて体験したんだ。でもあの時は国境の反対側に南の隣国の一行が迎えに来てくれていたんだ。凄い人数で圧巻だったよ」
「そうか、王女殿下の輿入れだものな。それに念願の本格的な国交再開だったしな」と伯父が言った。
「前侯爵は、よく外国に出向くのか?」
「東と南はたまに。あと領地の港から西の大陸にはよく行ったな。だが東の検問所はさっきのように並ぶからな。賄賂が欠かせないのだよ」
伯父様、賄賂なんて殿下の前で堂々と言っていいのだろうか?と思っていたら、それは当たり前の光景なのだそうだ。
お金のある人は前の馬車に金品を渡して先に行かせてもらうらしい。もちろん検問所には賄賂はタブーだ。
だから伯父のポケットにはいつも宝石やらが入っている訳か。
納得だ。