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卒業式の次の日、ザック殿下が侯爵家にリリベル達を迎えに来てくれた。
「リリベル嬢、前侯爵、道中宜しく頼む」
とザック殿下とフィリップ様が馬車から現れた。
馬車は伯爵領に行った時よりも大きくとても立派で、王家の馬車だと一目瞭然だった。
「わぁザック殿下、前回より立派な馬車ですね」
「それは今回は国を背負って行くからな。兄上が用意して下さったんだ」
「リリベル嬢、私は後ろの馬車に乗りますので、リリベル嬢の侍女も後ろの馬車に」
「あ、私には侍女はいないので」
「え?そういえばリリベル嬢はいつもお一人でらっしゃいますね?前侯爵様は?」
「私も一人だ。自分の事は自分でできる」「‥‥‥」
「フィリップ気にするな。6人乗りだからお前もこっちに乗れ」 「しかし…」
「リリベル嬢はもちろん、前侯爵も気にしないだろう」
「殿下、フィリップ様が可哀想じゃない?」
「そうなのか?」「いえ、私もご一緒させて頂きます」
結局、一台目の馬車に殿下と伯父、リリベル、フィリップ様が乗り込んで出発した。
「なあリリベル嬢はまだしも、前侯爵も身軽過ぎないか?」
「私は普段から移動が多いので一人が楽なのですよ」
「そうか。それにしてもリリベル嬢は、とうとう私服まで男装に変えたのか?」
「一応、カツラもドレスもありますよ。でも道中はこっちが楽かなって。兄のお下がりなんです」
「私も妻も新しく買い揃えてやるって言ったのにな」
「そんなのもったいない。それに伯母様の趣味だと、ちょっと危険な気が…」
「前侯爵も夫人も甘やかす方向性が違う気がするが、まあいいわ。王都から東の国境の検問所までは3日、そこから東の王都までは約4日くらいだから片道1週間くらいの旅程だけどいいか?」
「混んでいると検問所で1日かかることもあるが、大丈夫なのか?」
「前侯爵が兄に頼んだんだろう?ちゃんと書状があるし、この馬車を見たら誰も文句を言わないだろう」
「そうか、それは有難いな。リリ、持つべきものは王族の連れだな!」
ザック殿下もフィリップ様も苦笑いしていたが仕方ない。
今回は殿下の方が付いて来た形なのだ。
だが馬車も護衛も王家からだ。確かに有難い。
「あちらには宰相の補佐官が行っているから、外交官ではなく補佐官と会うことになっている」と殿下が仰った。
「ああガブリエラか」伯父の返答にリリベルだけじゃなくフィリップ様も反応される。
「伯父様、知っている方なの?」
「ああ、お前の従姉妹だよ。私の2番目の弟のとこの長女だ」
という事は「聖騎士ミカエル様の?」「そうだ姉になる。弟には3人子供がいてね、一番上の子がガブリエラ、2番目がラファエルで、3番目がミカエルだ」
「へぇ。宰相様の補佐官なんて優秀な方なんですね」
「そうだな。エリオットの一つ上だが、エリオットが入学した時の学院の生徒会長をしていたそうだ」
「補佐官様は独身でらっしゃるの?」
「そのようだな。結婚したとは弟からも聞いてないし」と伯父と会話していると、“独身”のあたりで急にフィリップ様がゴホッと咳き込まれたので、フィリップ様を見ると、彼は何やら慌てた様子で
「済みません、お二人共。会話を続けられて下さい」と仰った。
リリベルは親切にスルーしてあげようと思ったのに、ザック殿下が余計な事を言う。
「フィリップの知り合いか?」フィリップ様は少し慌てながら、
「あのっ彼女が入学してきた時の生徒会長が私だったんです」
殿下は「へー凄いな。皆、微妙に繋がってる」と言っているが、ホント殿下のそういうとこ!良くない。
だってどう考えても学院時代に何かあったでしょ。伯父様も察した顔している。
最悪、エリオット様も関わっている可能性があるよね。伯父は知っているかもしれないけど、私はどうでもいいや。
フィリップ様の為にザック殿下がこれ以上、詮索しないように見張っとこ。