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卒業式当日。
在校生代表の送辞は代々生徒会長がやるそうだ。
卒業式自体は生徒会の仕事はそんなにはない。
卒業生への記念品の準備と贈呈ぐらいだ。
忙しいのは卒業パーティーの前準備で、卒業生への衣装のレンタルやパーティーのケータリング、楽団の依頼などがメインだが、依頼した後は請け負った先が全てやってくれるので、その後は特にする事はない。
ただ体調を崩す学生の対応や、学生がハメを外さないよう会場の角で監視や巡回をするくらいだ。
生徒会役員は制服参加だが、卒業生のパートナーを務める場合はもちろん役員を免除される。
しかし今年はパートナーを務める役員はいないので全員で監視にあたっている。
リリベルも他の役員と共に、パーティー会場で何人かと監視に当たるが、特に変わった様子は無い。
会場では教師や生徒が別れを惜しみ、会話や飲食を楽しんでいる様子や、時々、男性や女性からの告白やプロポーズがあったりして場を盛り上げている。
この場が学院生が集う最後の場なので気持ちを伝えたい者は必死だ。
それが一段落した後、ダンスタイムが始まる。
この場で新たに誕生した初々しいカップルのダンスが微笑ましかったりする。
シャーロット嬢が「婚約破棄したり、断罪したりしそうな集団はいませんね」と言っているが、一体、あなたは何の監視をしているのか?
しかも集団とか、そんなの集団でしないだろ!と思っていると、春にリリベルと男爵令息達を学舎裏で、取り巻いたお姉様方が現れた。
侯爵令嬢と伯爵令嬢中心の令嬢達だ。
「リリベルさん、あの時はあなたを誤解して、あなたの事を悪く言ったことをお詫びするわ」
と高位貴族にも関わらず、二人はリリベルに謝って下さった。
「あなたも実はあの男爵令息が好きだったのかしら?」
まだ誤解したままだぞ!ちょっと感動してたのに。
「彼に好かれる為に男装の麗人になったのね!?」
だから違うって!殿下が後ろを向いて笑っている。
笑いの沸点が低い人がいるから気を付けてくれないかな。
「男爵令息にはなれないけど、あなたとは仲直りしたいわ。だから一緒に踊ってくれない?」そうきたか!
殿下が腹を抱えて震えている。大層ムカついたので、
「いいですよ」と言ってリリベルは侯爵令嬢のお姉様の手を取る。
周囲の令嬢が「まあ!」と口々に言っている。
そして殿下も「えっ」って我に返っているけど、ダンスフロアの真ん中に、さっさとお姉様をエスコートする。
今日は楽団にはワルツの演奏しか依頼していないので、ほぼテストで踊ったワルツと変わらない。
基本三拍子だしリードしてしまえば振り付けも何とかなる。
リリベルは侯爵令嬢のお姉様を見事にリードして踊り切ると、前日に断った令嬢達や新たな令嬢達がリリベルに殺到した。
「あいつ職務怠慢じゃないか?」と言うザック殿下に、
「ヒーローが悪い」と言ってシャーロット嬢は殿下を睨みながら
「ヒロインのせいで婚約破棄が出たら…」と変な心配をする。
「それはありませんから」と生徒会長が突っ込みを入れながら
「仕方ありません。卒業生が主役ですから、リリベル嬢と踊って記念になるなら、喜んで生贄として差し出しましょう」と微笑んでそう仰った。
そうしてリリベルは何人踊ったか途中で分からなくなるほど踊りまくった。
「体力スゴイな」と呟く殿下の横で、マレシオン様が
「これは王太子殿下の記録を抜いたかな?」と仰っていた。
だがシャーロット嬢だけは「男女逆」と一人、不満そうだった。