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 「リリベル嬢、済みません。放課後にお呼び立てしてしまって」

 リリベルは今、学院のオシャレカフェで生徒会長とまた3段のアフタヌーンティーセットと向き合っている。

 前回と種類の違う美味しそうなブルスケッタに目が釘付けだ。


 「リリベル嬢、昨日の事をちゃんとお詫びしたくて」

 「監視の件はもう良いです。姉のことがあるので理解できますし、お姉様方のお陰でスッキリしました。でもリリアン様にはきちんと詫びといて下さい」

 「分かりました」

 「言っときますけど監視要員に選んだ事じゃなくて、監視要員だった事を私にバラした事ですからね!」

 「そうですね。あと、あなたの髪型に口を出した事も詫びます」と生徒会長は頭を下げた。


 カフェテリアは卒業式を前に空いているが、公爵令息が子爵令嬢に頭を下げるのを見られてはいけないだろう。

 リリベルは慌てて「止めて下さい!そこまでの行為を望んでいません。もう十分ですから」と言う。

 「でも私の気が済まなくて」

 「じゃあ、もう食べてもいいですか?」

 正直、ご馳走様を前にお預け状態辛い。


 期末テスト後の自習時間は午前中だけだから、放課後とはいえ昼食をまだ食べていない。

「ああ済みません。お腹空きましたよね?他にも何か頼みますか?」

 リリベルはランチタイムメニューに目を通して、

 「じゃあこれ!ミートソーススパゲッティにチーズ増し増し!」


 生徒会長はフッと笑って「分かりました」と頼んでくれた。

 そもそもこのアフタヌーンティーセットも今、あるのはおかしいだろう。

 普通はランチタイムの後のメニューだ。

 やはり公爵令息が言ったら出さないといけないんだなと思いながら、ブルスケッタを口に入れる。

 

 あぁトマトの酸味が実に良い。

 リリベルがうっとり味わっていると、

 「あなたの髪型なのですが、本来は私が口出しすることではないと分かっているのです。ですが、それ以上にショックだったのです」

 「へ?」食事に集中していたから聞き逃したか?

 「何がショックて仰いました?」

 「リリベル嬢、あなたの髪が短くなった事です」

 「?」「私の髪が短いことで何か生徒会長にご迷惑をお掛けするでしょうか?」

 

 リリベルが暗に意味が分からないと言うと、生徒会長は、

 「リリベル嬢、私はあなたに“細い”と言われてから、今、体を鍛えています。だから、あなたの理想に近付けたなら、私の事を考えてはもらえませんか?」

 と仰った。


 リリベルは、まだ咀嚼中だったスパゲッティを思わずゴクンと飲み込む。

 「それは…」

 「王太子妃様が義姉になるのは怖いです」

 多分、姉ちゃん達もドン引きするだろう。

 王太子もヤバい人だしな。


 「あっ姉は関係ありません。姉が嫌なら会わなくても…」

 そういう訳にはいかないだろう。それに、

 「公爵様も怖いです」王妃様のお茶会で、ずっと厳しい目で見られてたんだよ。


 「それに私は子爵領に帰りたいんです。でも子爵家は兄が継ぐ予定なので、私は平民になります」

 リリベルはフォークを一旦置く。こんな話をしてたら、せっかくのスパゲティの味が分からん。もったいない。

 だからさっさと言っておく。

 「マレシオン様、公爵家捨てれます?だったら考えます」

 リリベルはお茶を飲んで、またフォークを取る。


 マレシオン様はリリベルの返答が予想外だったのか固まってらっしゃる。だが、

 「断られるかもと思っていましたが、それはまさかの返答でした。まだ私の覚悟が足りていないようです。リリベル嬢、あなたも子爵家を捨てても良いと思える男にならなくてはと、今、覚悟を決めました。お互いにまだ答えを出す時では無いようです。リリベル嬢、でも私の気持ちを知っておいて下さい」

 そうマレシオン様は仰った。


 だからリリベルは思わずスパゲッティを巻いたフォークをマレシオン様に差し出してしまった。

 「あーん」

 マレシオン様は、また不意打ちだったのか固まった。

 以前もやったのにな。

 3秒は待ったけどタイムアウトだ。リリベルはフォークを自分の口に運び

 「リミットはマレシオン様が卒業するまでです」と告げた。

 彼が学院を卒業したら、もうほぼ会わないだろうとリリベルは思った。


 マレシオン様はリリベルとのやり取りで何やら腹を括ったらしい。何だか目が据わって見える。しかし直ぐに普段の生徒会長に戻った。

 「ところでリリベル嬢、髪型はともかく、その格好はまだしないといけないのですか?」

 そう、リリベルはまだ殿下からお借りした令息の制服のままだった。

 「いや、今はこっちの方が似合うし、それに動きやすいんで」

 ズボンの方が俄然動きやすい。階段もしゃがむ時もスカートを持ち上げなくていい。なんなら走りやすい。


 生徒会長は溜め息を吐いて

 「リリベル嬢、夏までに令嬢に戻っておいて下さい。じゃないと」

 「じゃないと?」

 「夏休みの南への視察団のメンバーに入れませんから」


 リリベルは口に入れたナッツのスコーンを吹きそうになる。

 一大事じゃん!夏までに5センチは髪が伸びるかな?足りなければカツラで…と考えていると、生徒会長は面白そうにリリベルを見ていた。チッ腹立つ。

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