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 この冬は北の後始末に追われ、妻を気にかけてやる余裕が全く無かったと外務大臣補佐官のエリオットは思った。

 なんせ義父である大臣と二人して、ほとんど屋敷に戻れなかったのだ。

 妻のビアンカは妊娠中だというのに。


 妻は春には出産予定だ。

 これからはもう少し側に居てやれるだろう。

 エリオットは、父が子爵領からお土産に持ち帰ったリンゴを持って、お腹が少し目立ち始めた妻を見舞う。


 「まあエリオット様!お久し振り」

 妻の第一声にエリオットは苦笑いして、

 「それ夫に言う挨拶かな?悪かったなと思ってるけど」

 と返すと、妻は首を傾げて、

 「だって今、お腹の赤ちゃんがそう言ったの」

 と言ってお腹をさする。


 「それは…仕方ないか」

 とエリオットは妻が座るソファの隣に座ってリンゴを剥く。

 侍女が「若様、私が」と言うが「僕、上手いんだよ」と言って断る。


 「わあ美味しい!こんなに甘いリンゴ初めて」

 「だろ?子爵領のリンゴは生でそのまま食べるのが一番なんだ。リンゴのこの部分は蜜なんだよ。この部分が多いと甘いんだ」

 「子爵領ってマリベルの実家の?」

 「そう。父がリリベルと子爵領に行っていたんだよ。これはそのお土産。他に野菜ももらったんだ。子爵領の野菜はどれも栄養があって美味しいんだよ。だから君にって」

 「そっか。マリベルがあんなだから子爵領も凄いんだろうね?」

 何が?とも思わなくもなかったが、まあ普通ではないかもな。


 「今、父が子爵領に別荘を建ててるんだ。やっと許可が降りたんだって。だから君の出産が終わった夏頃、連れて行けるよ。とても美しい所だ。涼しいし」

 「本当?嬉しい。ソフィーナとアイリーンも誘えるかな?皆、親戚だし」

 夫よりそっちか!

 でも彼女達のお陰で妻は寂しい思いをしなくて済んだらしい。それに彼女達も同じくらいの子供を連れた先輩ママだ。ビアンカも心強いに違いない。


 「二人のところは娘だったっけ?」

 「そうアイリーンは残念がってたけど二人共ママ似なの。とても可愛かったわ」

 「兄のところはママ似で良かったよ。ビアンカはどっちが欲しいかな?」

 「んーどっちでも。でもすごく元気だから男の子かな?ほら」とビアンカが僕の手を掴んで彼女のお腹に載せる。


 確かにポコポコと中から蹴るように動いてる。

 「パパに挨拶できて良かったね〜。次はもっと早いといいね」と言うから

 「早く解決してくるよ。お祖父ちゃんと一緒にね」

 と言って、年末にビアンカが皆で公爵家に集まった話を聞いた。


◆◇◆◇


 「リリベル嬢!」

 「あっミカエル様!こんにちは。今日はお休みですか?」

 「いえ、これから本部に向かいます。でもあなたが子爵領の報告にいらっしゃると聞いたから、ここで待っていたら会えるかと思って」

 「えっそんな!お待たせしてしまいましたよね?」

 「大丈夫です。終わる頃を見計らって来ましたから」

 ああ、やっぱり可愛いなリリベル嬢。


 「リリベル嬢、次のあなたの学院のお休みの日に会えませんか?」

 「え?いいですよ」「!」マジで?即答なの?

 「デートですか?初めてだ!嬉しい」

 デートって認識してるの?初めてって!嬉しいって!俺、全てのラッキーを今ここで使ってない?

 

 「じゃあ学院の寮に迎えに行きます」

 「ミカエル様、多分、侯爵家の伯父の屋敷にいます。最近、毎回帰っているので」

 「では、侯爵家に迎えに行きます」

 「はい。よろしくお願いします。あと良かったら、これどうぞ。子爵領のリンゴです」

 「ありがとう」「ではまたー!」

 俺はリンゴを手にリリベル嬢の背中を見送る。


 良かった。デートに応じてくれた。

 俺はルンルンで聖騎士本部に戻り、仕事もご機嫌でこなしてた。

 この後、数日後に筆頭侯爵家から“お誘い”の手紙が来るまでは。


 デートの前日、仕事後に恐る恐る“腹黒屋敷”を訪れた俺は、伯父と伯母と侯爵夫人に米酒の洗礼を受け、結局、次の日はリリベル嬢とお出掛け出来なかった。

 先に父に侯爵家攻略法を聞いておけば良かったと後悔した。

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