リア充たちに送る鎮魂歌《レクイエム》 リア充撲滅委員会 活動日誌 〜バレンタイン篇〜
さて、皆さんに質問です。恋人いない歴=年齢ですか?
え? 違う? お話になりません。評価とブックマークだけ押してご退場願います。
去年のバレンタインにチョコは貰いましたか? もちろん、お母さんは除きます。
うんうん、そうですよね。貰っているはずがありません。だってこの俺が貰っていないのですから。
貰ったと答えた方は、評価とブックマークだけして爆発してください。この物語を読んでも良いのは、『リア充撲滅委員会』の会員の方のみです。
***
2月14日。
教室では女子たちが楽しげに友チョコを交換し合い、運動部の男子たちはそわそわと落ち着かない様子で女子のほうをちらちらと見ている。机に肘をつきながら、それとなく気にしている奴もいる。
そんな中――『リア充撲滅委員会、東京23区会長』たるこの俺、織本蓮は、非モテの友達二人と教室の隅で雑談していた。
「お前ら、何個チョコ貰った?」
一瞬の沈黙。高橋と伊藤が互いに顔を見合わせる。
最初に、痩せ型の高橋が口を開いた。
「ゼロ」
次に、ぽっちゃりメガネの伊藤がメガネをクイッと上げながら言う。
「戦果なし」
俺は大きく頷く。
「ま、当然だよな。俺たちはリア充撲滅委員会……チョコを貰うなんて、我が信念に反することだ!」
そう言いつつも、ちらっと教室の入り口を見る。万が一、いや、億が一でも……俺宛のチョコを持ってくる奇特な女子がいたり……しないか?
***
そんな奇特な女子は……存在しなかった。放課後の教室に、「バレンタインは終わりました」という雰囲気が漂っている。
「はぁ……結局今年もゼロか……」
俺は溜息をつく。
「ま、お前たちと一緒なら寂しくはないよ。仲間だもんな! 非モテの!」
そう言うと、高橋と伊藤は気まずそうに目をそらした。
「……済まない」
唐突な謝罪。
「ん?」
俺が首を傾げると、伊藤がメガネを押し上げ、意を決したように口を開く。
「その……言いづらいのでありますが……」
「?」
「拙者と高橋殿は、昼休み、織本殿がトイレに行ってる間に……森川殿が義理チョコを配っていたのを受け取ったであります」
「……は?」
何を言っているんだ、こいつら。
森川はクラスの人気者だ。女子なのに、男女問わず誰とでも仲が良い。そんな彼女が義理チョコを配るのは、まぁ分かる。だが、それを受け取るとは……?
「まさか……」
俺は呆然と二人を見た。
「お前ら……リア充撲滅委員会を……裏切ったのか?」
高橋と伊藤がビクリと肩を震わせる。
俺は机をバンッ! と叩いて立ち上がった。
「踏み絵だ!」
「「え?」」
二人が目を見開く。
「当たり前だろ! もらったチョコを踏め!」
「え、でも……」
「本当に義理チョコなら、なんの躊躇もないはずだ!」
俺は二人をにらみつける。
「……できないなら、お前らは裏切り者だ」
沈黙。
「で、でも……森川さんに……申し訳ないような……」
二人は目を泳がせる。
さて、どうする……?
そんな時、背後から声がした。
「織本くん!」
振り向くと、森川さんがそこに立っていた。
彼女の手には、小さな袋。
「このチョコ、他のみんなとは別で作ったから! 受け取ってください!」
「……は?」
俺の頭が一瞬停止する。
他の男とは別のチョコ……?
それはつまり……俺だけのチョコ!?
背中にじわりと汗が滲む。
そんな俺をよそに、背後では……
「「踏、み、絵! 踏、み、絵!」」
(パン、パン……!)
(パン! パン!)
二人の踏み絵コール。手拍子が少しずつ大きくなる。
「どうしたの?」
森川さんが不思議そうに首をかしげる。
「えっ、いや、その……」
教室の隅で高橋と伊藤がニヤニヤしている。
このまま受け取れば、会長としてのプライドがズタズタ。
だが、拒否すれば――
「どうすれば……!」
……二人の男子と一人の女子。俺の人生の17年間と目の前の女子。どちらが大切か……
……俺は決断した。
俺は、震える手でチョコを受け取る。……温もりを感じる。
「森川さん、本当にごめえええぇぇん!」
だが――俺は、これを……!
グッと歯を食いしばり、振りかぶる。
次の瞬間、俺はチョコを地面に叩きつけた。
「……え?」
森川さんが、泣きそうな顔で俺を見つめる。
うん、わかる。俺も泣きたい。
でも、一度口にした「踏み絵」を曲げることなどできなかった……。
俺は決意を込め、思いっきり――チョコを踏みつける。
「……っ!」
森川さんの瞳から、涙が零れ落ちた。
その時だった。
バタバタバタッ!!
「は? 何の音――」
俺が振り向くと、廊下から十数人の女子生徒がなだれ込んできた。
「……殺す」
「言いたいことはすごくわかる……! でもこれには海よりも深ーい事情が……!」
「言い訳無用!!」
「良くやった、拙者たちはこれにて」
伊藤がさっと退散する。
「あとは頑張れよ、女を泣かせた織本」
高橋がニヤリと微笑みながら言った。
「ちょ、待っ!」
俺は十数人の女子生徒に囲まれる。
「織本くん、サイッテー!!」
バキッ!! 人からなってはいけない音ーー
「ぐえぇっ!!」
ここからのことは、あまり覚えていない。
一瞬、花畑が見えた気がした。
この事件以降、俺は “バレンタインクラッシャー” という称号を得た。
……千載一遇のチャンスを逃した俺は今年も、俺の机には何のチョコも置かれなかった。
だからこの俺、織本蓮は言いたい。“初めから決めつけるな” そして、“最後まで諦めるな”
***
以上です。どうか、ここまで読んでくれた皆様にバレンタインの神様が微笑みますように……そして、作者自身も彼女いない歴=年齢を終わらせられますように……
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