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真野さんは、何も言わなかった。
言葉を探すみたいに、目をキョロキョロとさせていた。
「あ、あの……」
私が意を決して声を発したら、真野はハッとしたようにこちらを見てから、様子を伺うようにアオイの方に目を向けた。
それは、怒っているというよりも、何かに怯えているような表情だった。
「あの、真野さん」
言おうと思った。
嫌われるかもしれないけど。
最低だと思われるかもしれないけど。
昨日の告白をなかったことにしてほしいと。
どうせ、この耳じゃ大学に通えない。
いつか治るかもしれないけど、治る保証もない。
「昨日私が言ったことはーー」
唾をひとつ飲み込んで、次の言葉を言おうとした時、真野さんが急に私の手を掴んだ。
そしてそのまま、走り出した。
「ま、真野さん?」
彼の思いがけない行動に戸惑いながら、引っ張られるままについて行く。
チラリと後ろを振り向くと、アオイはニヤリと笑って、ひらひらと手を振ってきた。