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「戻らないと……」
荒い息を吐きながら、私はそう呟く。
「ああ。このまま寝てしまったら、まずいな」
真野さんも、私の横で息を切らしながら同意する。
でも、身体がまったく動かない。
疲労とは違う何かに満たされて。
「私、こんなに満足したの、初めてです」
口を滑らせるみたいに、私はそう呟く。
「俺もだ。お前が呪いにかかってた時は、何回やっても物足りなかった」
真野さんはそう答えた。
真野さんの比較対象は、過去の私なんだな。
ぼんやりした意識の中でそう思った。
「正直、お前を満足させられるか不安だった。お前は、他にも男を知ってるから」
私と同じようなことを思ったのか、真野さんはそう言った。
嫉妬というよりも、達観してるみたいな口調で。
「大げさに聞こえるかもしれないですけど、」
これだけは、伝えておきたい。
「今までのは何だったんだろうってくらい、気持ちよかったです」
私も初めてをあげられたら良かったけど。
経験したからこそ、これを奇跡と呼ぶことができる。
「本当に大げさだな」
真野さんが笑い混じりに呟く。
「お前の過去の男に嫉妬しないわけじゃないが、この先一緒にいられるなら、俺はそれでいい。一生愛していいんだろ?」
『俺はろくな死に方をしないと思う』
いつだったか真野さんはそう言った。
それを聞いて私は、真野さんが死ぬ時、そばにいて抱きしめていられたらいいのに、と思った。
あの時は、叶わない願いだと思っていたけど。
今なら、約束できる。
真野さんに抱きついた。
「私も、一生、真野さんを愛します」
「ああ」
真野さんは私の身体を抱きしめ返してくれた。




