2
「どうかしましたか?」
私が声をかけると、真野さんはビクリと肩を震わせた。
「お前……、何ともないか?」
恐る恐るといった調子で、そう尋ねてくる。
「何がですか?」
「その……、ムラムラ、したりとか」
「なっ」
顔が一気に熱くなる。
何を深刻そうに言い出すかと思ったら。
「いや、違うんだ」
冗談だと思って叩こうとした私の手を取って、真野さんは真剣な顔で言った。
「なぜ今のキスで記憶が蘇った?前にも同じようなことがあったよな。俺とのキスで、お前はアオイとのことを思い出した」
早口で、そう捲し立ててくる。
怯えたような声で。
「俺は、アオイにキスをすることで、呪いの力を返した。でも、その前に俺は、何度もお前にキスをした。
その時に、お前に呪いの力を与えてしまっていたのだとしたら?今のキスで俺が記憶を取り戻したことにも説明がつく」
真野さんは唇をわなわなと震わせながら続ける。
「俺はいま、お前にまた、呪いをかけてしまったのかもしれないーー」
本気で怯えているようだ。
だけど、その理屈はおかしい。そう思った。
「だとしたら、呪いをかけられるのは真野さんの方じゃないですか?」
真野さんの理屈だと、呪いの力を持っているのは私のはずだ。
それなら、私が真野さんに告白した時に、呪いをかけてしまっているはずだ。
でも、真野さんは興奮状態になどならなかった。
仮に、私とキスした時に、真野さんが呪いの力を取り戻したのだとしても、私が今こうして正気を保っている時点でおかしい。
真野さんはいま、私に向かって『好きだ』と何回も囁いたのだから。
真野さんの目は、私を見つめたまま動かない。
頭の良い真野さんのことだ。
こんな簡単なことが、分からないはずがないけど。




