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「悪かったよ」
俯く私の顔を覗きこむようにして、真野さんが謝ってくる。
「信じられなかったんだ。夢みたいで」
やっぱり、私の思い違いじゃなかったのだろうか。
「えっと、真野さんも、私のこと……?」
確信が欲しくて、言葉を求める。
けれど。
「言わなくても分かるだろ」
ひらりとかわされてしまった。
「ズルい。私には言わせておいて」
「お前が勝手に言ったんだろ」
そうだけど。
「じゃあ、キスしてください」
自分の唇を指さして言った。
「はあ?」
真野さんがわかりやすく動揺する。
かわいい。
絶対、キスしたい。
「好きって言ってくれないんだったら、キスしてください。じゃなきゃ、真野さんが私のこと好きだなんて信じられないです」
真野さんは少し逡巡する様子を見せたけど、慌てたように首を横に振った。
「できるか、こんな場所で」
「ここじゃなかったらいいんですか?」
「うるさい」
音もなく、幻想が浮かび上がる。
私は、その唇に触れたことがある。
何度も、唇を重ねたことがある。
「分かった。好きだ。好きだよ。これでいいだろ」
降参だというように両手をあげて、真野さんはやっと好きだと言ってくれた。
でも。
もうダメ。
私はもう、このデジャブを確かめずにはいられない。
「待ーー」
真野さんが制止するのも聞かずに、その頬を引き寄せて、キスをした。
真野さんは、固まってしまったように、動かなくなった。
抵抗が消えて、体勢を変えるために一瞬唇を離す。
そして、再び触れた時ーー。
私はすべてを思い出した。




