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アオイは、左腕で私の身体を抱きしめたまま、私のスマホを持つ手を持ち上げて、勝手に文字起こしアプリを起動させた。
画面上に文字が入力されていく。
『今から僕がすること、嫌だったら言ってください』
「え、何する気?」
私がそう尋ねても、それっきり文字が増えることはなく、その代わりに私のトレンチコートのボタンとボタンの間にアオイの手が潜り込んでいく。
「ちょっと。やめてよ、こんなところで」
私たちがいるのは、そこそこ人通りがある道の真ん中だ。すぐ横の車道では車がバンバン走っている。
「アオイ、何考えてるの」
腕を掴んで阻止しようとしているのに、私の胸をまさぐるのをやめない。それどころか、首元に吸い付いてくるのを感じる。
やがて、アオイのひんやりとした指が下着の中に侵入してきた。
いくらアオイでも、感じてしまうーー。
胸が弱い私は、そう思って身構えたけど、不思議なくらい何ともなかった。
むしろ、不快なくらいだ。
アオイの声を拾うためにスマホを見ているせいで、周りからは自撮りしてるように見えるのではないかと、恥ずかしく思う余裕すらある。
「ねえ、やめてってば」
その時、アオイが耳元で何やら喋ったのが分かった。
慌ててスマホの画面を見る。
『来ましたね』
「何がーー」
胸から手が抜けて、あっさり解放された。
「な、何なの、いきなり」
アオイは、楽しそうな表情を浮かべていた。
私のスマホを指さしてくる。
『嫌でした?それとも、良かった?』
画面にそう表示されていた。
「馬鹿じゃないの」
『嫌だったら言ってって言ったのに、橋本さん、嫌がらないから』
「やめてって言ったでしょ」
『その割には、抵抗少なかったですよ』
反論しようと思ってアオイを見上げると、ニヤニヤしていた。
確かに、嫌ではなかった。
でも、勘違いされたくなかった。
「少なくとも、良くはなかったから。自分でもびっくりするくらい、何も感じなかった」
『へえ。それは面白いですね』
「あんたねーー」
私が何かを言いかけたのを遮って、アオイは顎で私に後ろを向くように促した。
促されるままに振り向いた私は、そこで絶句した。
真野さんが、すぐ後ろに立っていた。
今の、見られただろうかーー?
いや。
見られてようが、何だっていい。
この耳じゃ、真野さんとは付き合えない。
こんな私、愛されてはいけない。