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「こんなところにいたのか」
砂を踏む靴の音とともに真野さんが現れた時、これも願望がみせる夢なのかと疑った。
「どうした。体調でも悪いのか」
ぼんやりと見上げていると、真野さんが心配そうに私の隣に腰掛けてきた。
夢でもいいから覚めないで。
「私を探しにきてくれたんですか?」
暗い色に戻った海を眺めながら尋ねる。
1秒でも長く、一緒にいたくて。
「恭子さんが探しに行けってうるさかったんだよ」
真野さんはそこで思い出したように、スマホを取り出した。
恭子さんに連絡するつもりだろう。
「真野さんって、恭子さんのこと、名前で呼びますよね」
こっちを見てほしくて、いじけてみせた。
「私のことは橋本さんなのに」
昔から思っていたことだけど、口に出して言うつもりはなかった。
理性の歯止めが効かない。
「何だそら」
スマホから顔を上げて、真野さんが呆れた声を出す。
「お前だって恭子さんって呼んでるじゃねえか」
至極まともなツッコミを入れた。
「恭子さんはラボ内で結婚したから、旦那がラボを出た後も恭子さんって呼ばれてたんだよ。お前も知ってるだろ」
真野さんが、私を宥めようとしてか、名前呼びのわけを丁寧に説明してくれる。
だけど私は、そんな説明を求めているわけではなくて。
「じゃあ、橋本って人がもう1人いると思って、私のことも名前で呼んでください」
「何でだよ。いないのに呼ぶ訳ないだろ」
「じゃあ、どこかから連れて来ますので」
「どうしたんだよ、お前」
亜希ーー。
真野さんの声が、耳に残って離れない。
私は、どうかしている。




