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思った通り、食堂は混んでいた。
いつもの席には座れなくて、食器の返却口に近い、隅っこの椅子に腰を下ろした。
右隣の冷蔵ショーケースに、美味しそうなプリンが並んでいて、現金を持ってこなかったことを後悔した。
恭子さんが、昼食に付き合えないお詫びにと定食の回数券をくれたから、財布を置いてきたのだ。
右の方を見ないようにしながら、鮭のムニエルをつついていると、不意に聞き馴染みのある声が後ろから聞こえてきた。
「学会発表、お前がやってみるか?」
真野さんの声だった。
振り向くと、私の左斜め後ろのテーブルで、学生と昼食をとっていた。
途端に鼓動が速くなる。
死角になっていて、全然気づかなかった。
「え、やりたいス。いつでしたっけ、学会」
学生が嬉しそうに尋ねる。
「秋」
真野の短い返しに、心臓がひときわ大きく跳ねた。
ーー亜希。
自分の名前が呼ばれたのかと思った。
「秋って。具体的な時期とか覚えてないんスか?」
学生は、真野さんの無愛想さに慣れているようで、笑ってそう返した。
「いちいち覚えてられるか。学会のホームページ確認して、演題登録の欄を埋めたら俺に見せろ。ああ、その前に、橋本先生に許可取っとけよ」
橋本先生ーー。
今度こそ、私のことだ。
お箸を持つ手が震えるくらいドキドキする。
でも、先生呼びが他人行儀に思えて、同時に少し寂しくなった。




