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愛してるって言わないで  作者: Mariko
思い出せない
72/89

3

 ***


 思った通り、食堂は混んでいた。

 いつもの席には座れなくて、食器の返却口に近い、隅っこの椅子に腰を下ろした。


 右隣の冷蔵ショーケースに、美味しそうなプリンが並んでいて、現金を持ってこなかったことを後悔した。

 恭子さんが、昼食に付き合えないお詫びにと定食の回数券をくれたから、財布を置いてきたのだ。


 右の方を見ないようにしながら、鮭のムニエルをつついていると、不意に聞き馴染みのある声が後ろから聞こえてきた。


「学会発表、お前がやってみるか?」

 真野さんの声だった。

 振り向くと、私の左斜め後ろのテーブルで、学生と昼食をとっていた。


 途端に鼓動が速くなる。

 死角になっていて、全然気づかなかった。


「え、やりたいス。いつでしたっけ、学会」

 学生が嬉しそうに尋ねる。

「秋」

 真野の短い返しに、心臓がひときわ大きく跳ねた。

 ーー亜希。

 自分の名前が呼ばれたのかと思った。


「秋って。具体的な時期とか覚えてないんスか?」

 学生は、真野さんの無愛想さに慣れているようで、笑ってそう返した。


「いちいち覚えてられるか。学会のホームページ確認して、演題登録の欄を埋めたら俺に見せろ。ああ、その前に、橋本先生に許可取っとけよ」


 橋本先生ーー。

 今度こそ、私のことだ。

 お箸を持つ手が震えるくらいドキドキする。

 でも、先生呼びが他人行儀に思えて、同時に少し寂しくなった。

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