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「ひとりで食堂に行く気?」
壁時計を見上げる私に、恭子さんが尋ねてくる。
「しょうがないじゃないですか」
恭子さんが付き合ってくれないなら、ひとりで行く以外に選択肢はない。
今から食堂に行くか、少し待ってから行くかの二択で迷っていただけだ。
「あ、真野くん誘ってみたら?まだいると思うわよ」
「な、何でよ」
動揺して、思わずタメ口になった。
私の真野さんに対する想いが、バレているのかと思った。
真野さんは、私の3学年上の先輩だ。
私がアメリカに行くタイミングで、博士課程を修了して、この研究室の講師になった。
アメリカから戻って来て2週間経つけど、真野さんとはあまり話せていない。
それなのに、想いは日増しに強まる一方だ。
「そんなに嫌がらなくてもいいじゃない。真野くん、愛想はないけど良い子よ」
恭子さんが宥めるように言う。
そんなの、知ってる。
知ってるから困ってるのだ。
学生の時から、真野さんは雲の上の存在だった。
たくさん論文を出して、学会では優秀賞を受賞しまくっていた。
そんな真野さんに対して、憧れを口にすることすら、おこがましいと思っていた。
少しでも真野さんに追いつきたくて、アメリカに行くことを選んだ。
それなのに、ろくに実績も残せないまま、ビザが満了して、このラボに舞い戻ってきた。
しかも、准教授として迎え入れられたものだから、講師の真野さんよりも立場が上になってしまって、もうぐちゃぐちゃだ。
「恭子さんが悪いんですからね」
私が恨み言を口にすると、恭子さんはきょとんとした顔で首を傾げた。




