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アオイは抵抗しなかった。
できなかったのかもしれない。
アオイの手から熱が引いていく。
それだけでなく、身体中の熱が唇に集まって、放出されるのを感じる。
ーー父さん、怒らないで
脳裏に響く声は、アオイの思考だろうか。
ーーごめん、約束破って
ーーもう悪戯しないから、許して
必死に許しを乞うている。
ーー待って、見捨てないで
ーー助けて、父さん
繰り返し助けを求める声が、次第に遠ざかっていく。
そして。
無が訪れる。
気づけば俺は、研究棟の中庭で、春風に吹かれていた。
「もうこんな時間か」
実験サンプルの測定が終わる頃なのに気づいて、白衣をひるがえして実験室へと駆け戻った。




