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『明日が楽しみになりました』
メスを自分の首に当てようとした時、亜希の弾む声が蘇った。
『真野さんの研究報告を聞いたら、次はどんな実験をするんだろうって、ワクワクして。
好きな芸人が解散して落ち込んでる友達の気持ちが、何となく分かった気がします』
彼女は知らない。
その言葉が、どれだけ俺の心を救ったか。
自分の研究報告を楽しみにしてくれている子がいるーー。
その事実が、どれだけ俺の毎日を変えたか。
あの頃の俺は、研究が行き詰まっていて、死ぬことばかり考えていた。
人に呪いをかけてしまうことに怯えながら生きることに、嫌気がさしていたのだ。
亜希は、そんな俺に生きる理由をくれた。
たとえそれが、彼女自身の言葉じゃなくて、幻だったのだとしても。
「おい」
メスから手を離して、アオイの胸ぐらを掴む。
「今、俺がお前にキスをしたらどうなる?」
死んだら、もう二度とやり直すことができない。
他に彼女を守る方法があるのなら、それを試してからでも遅くない。
「だ、ダメだ」
俺の問いに、アオイは明らかな動揺を見せた。
「今はダメだよ。向こうに戻ってからじゃなきゃ」
俺に対する欲情と恐怖の狭間で、葛藤している。
「どうなるのかって聞いてるんだ」
「ね、一緒に行こう。その後ならーー」
問いには答えずに、再び俺の胸に手を当ててくる。
胸がじんわりと熱くなって、力が抜けていく。
俺を自分の世界へ連れていくつもりだろう。
力を振り絞って、アオイを引き寄せて、唇を押し付けた。




