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「本当に言うんだ」
わずかな沈黙の後で、アオイが笑って言う。
その声の調子がいつもと変わらなくて、一瞬からかわれたのかと思った。
でも。
「はあ、すっごい。ゾクゾクするな。戸塚に言われてるみたいで」
アオイは、俺の胸に手を沿わせて、恍惚の表情で見つめてきた。
「君は、戸塚の若い頃にそっくりだ」
うっとりと、そう呟く。
こいつは、爺さんに惚れていたのだろうか。
それで爺さんから女を奪っていたのだろうか。
もしかすると、爺さんに呪いの力を与えたのは、爺さんとこうなりたかったからだったのかもしれない。
「さあ、僕と一緒に行こう」
アオイに触れられている部分が熱を帯びだすのを感じて、俺は我に返った。
過去のことなど、どうでもいい。
俺の復讐はまだ終わっていない。
アオイを突き飛ばして、尻ポケットに手を突っ込む。
すぐに金属質のひんやりとしたものが指に触れた。
これは、大型の実験動物を解剖する時に使うメスだ。
これで全てを終わらせる。
刺す相手は、アオイではなく、自分だ。
アオイを刺しても、殺せる保証はない。
俺なら、頸動脈を正確に切り裂ければ、確実に死ぬことができる。
母さんは、父さんを刺し殺した後、父さんに跨って、父さんの名前を叫びながら自殺した。
父さんが死んだ後も、呪いが解けなかったのだ。
それなら、俺が死んだ後も、アオイの呪いは解けないに違いない。
こいつが、亜希に手を出すこともない。
「愛してるよ、アオイ」
呪いをできるだけ強くかけたくて、俺は愛の言葉を繰り返す。
死ぬ前に。
死ぬのは怖くない。
亜希と一緒にいられない世界に、未練はない。




