3
日が高くなった頃、亜希は気が済んだように立ち上がった。
俺を見下ろして儚げに微笑む彼女は、ゾッとするくらい美しかった。
空腹を満たすために、海辺のカフェに入って、亜希と同じプリンを頼んだ。
甘いものは苦手だったはずのに、亜希と一緒に食べると、なぜか美味しく感じた。
手の平ほどの大きさのプリンを、互いに見つめ合いながら、長い時間をかけて食べた後、再び車に乗り込んで、来た道を戻った。
帰りの車の中で、亜希は一言も喋らなかった。
喋らないまま、彼女のマンションの前に着いてしまった。
このまま、お互い無言のまま別れるのか。
それも悪くないーー、そう思いながら車を停めると、亜希は口を開いた。
「もう一度だけ、」
俯いて、心細そうに言う。
「もう一度だけ、真野さんの声が聞きたい」
スカートの裾を握りしめる手が、震えている。
「きっと私、すぐに何も考えられなくなっちゃうけど、それでもーー」
理性が破れる音が聞こえた。
手早く、サイドブレーキをかけて、ギアレバーを動かして、エンジンを切った。
車を降りて、助手席に回り込んで、亜希の手を引く。
まだだ。
誰にも、この子の乱れた姿を見せたくない。
部屋に入るなり、噛み付くようなキスをした。
「真野さんーー」
閉まったドアに押しつけて、その首筋に口付けを落とす。
「亜希」
好きだ。
「亜希」
この世界が変わっても、愛してる。
この世界が壊れても、俺は君を愛し続ける。
事が済んだ後、俺がシャワーを浴びている間に、亜希は眠ってしまった。
あるいは、眠ったふりをしてくれたのかもしれない。
意思が弱い俺の気持ちが、変わらないように。
その頬に触れようとして、未練を指先に集めたまま、彼女に背を向けた。
大股で部屋を出て、そのまま、車で研究室に向かった。
アオイと決着をつけるために。




