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「俺が間違っていた」
身を起こして、俺はそう言った。
「やっぱり、このままじゃダメだ」
亜希は反対しなかった。
最初から分かっていたみたいに、ギュッと俺の手を握った。
「アオイにキスして、呪いを終わらせてください」
「それはーー」
反論しようとした俺に、彼女は真剣な顔で首を横に振る。
「私以外の女の人に好きって言ったら、許さないから」
そう言って、唇を震わせたかと思うと、大粒の涙をこぼした。
「分かった」
その身体を抱き寄せて、髪を撫でる。
「橋本さんがそう望むなら」
「亜希」
「え?」
「亜希って呼んでください」
その名前を口に出すのは怖い。
心の中でその名を呼んで、想いを叫び続けてきた俺にとって、それはほとんど、好きだと打ち明けるようなものだから。
「亜希」
恐る恐るそう呼びかけた。
彼女のささやかな望みに応えるために。
「亜希」
長年秘めてきた想いを、弔うために。
「やっぱり私、」
俺の背中に手を回して、亜希が呟く。
「真野さんとデートしたい」
遠慮がちな、迷うような声で。
「思い出が欲しいの。たとえ明日、世界が変わるのだとしても」
アオイにキスをすれば、俺たちの呪いに関する記憶は消えて、世界が辻褄の合うように作り変えられる。
「どこに行きたいんだ」
どこへでも連れて行こう。
どうせ、明日で、世界が終わるのだから。




