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「アオイにキスして」
しばらくして、亜希は俺に抱きついたまま言った。
「呪いを消してください」
「そんなことをしたら、俺も呪いのことを忘れるから、橋本さんのことをアオイから守ることができない」
「私は大丈夫です」
亜希は、俺から身を離して、涙の渇かない顔で微笑んだ。
馬鹿な。
何が大丈夫なんだ。
あんな得体の知れない化け物に、連れ去られて、壊されるかもしれないというのに。
「私ね、真野さんのことが好き。大好き。アオイは操ったとか言ってたけど、この気持ちは、私だけのものです。
真野さんにこんなに愛してもらえて、私はじゅうぶん幸せでした」
「何言ってるんだよ」
幸せになるのは、これからだろ。
「橋本さんをアオイに渡すくらいなら、俺は他の女に呪いをかけることを選ぶ。
そしたら、橋本さんを呪いから解放できるし、俺は橋本さんをアオイから守ることができる」
たとえ、亜希が俺を忘れても。
俺が覚えていれば、じゅうぶんだ。
「嫌です」
亜希がきっぱりと断ってくる。
「私だけが忘れるなんて、そんなの絶対ダメです。私、馬鹿だから、真野さんが傷つくだけです」
「そんなことーー」
「アオイの言う通りなんです」
俺の反論を遮って、亜希は言葉を続けた。
「私はきっと、どんなに真野さんが守ろうとしてくれても、アオイに靡く。真野さんのことを見失ってしまう。
だって、真野さんは私にもう二度と、私に好きって言えないんでしょ?」




