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「違う」
感情を押し殺して、冷静に否定する。
「爺さんから聞いたんだ。俺が呪いをかけたのは橋本さんが初めてだ」
俺がそう言ったら、亜希は安心したような顔をした。
「戸塚さんも、同じ力を持ってたんですか?」
続けてそう尋ねてくる。
「そうだ。もともとアオイは、爺さんに呪いの力を渡した。それが俺に受け継がれたんだ」
「ああ、それで、アオイは戸塚さんの話をしてたんですね」
納得したように頷いている。
「じゃあ、母は戸塚さんに……」
賢明な彼女の思考は、あっという間に20年前の真相に辿り着く。
「戸塚さんの言葉の意味がやっと分かりました。母は、私の声が聞きたくて、望んで実験台になったんですね」
その通りだ。
耳が聞こえなくても、呪いがかかるのかどうか。
もしも呪いがかかったら、爺さんや同性の声が聞こえるようになるのかどうか。
爺さんは、それを検証しようとしたのだ。
「お母さん、やっぱりあの時、私の声、聞こえてたんだ。だから、うるさいって言ったんだ……」
紐を解くように、亜希は真実をなぞっていく。
「だけど、」
やっと言える。
あの時伝えられなかったことを。
「橋本さんのお母さんが亡くなったのは、橋本さんのせいじゃない。その時には呪いが解けて再び聞こえなくなっていたはずだ」
『お母さんなんか大嫌い。死んじゃえ』
そんな言葉を母親に投げつけたことを、亜希はとても悔やんでいた。
俺の言葉に、亜希は一瞬、虚をつかれたように呆気に取られた後、俺に抱きついて、声をあげて泣き出した。
「言えなくてすまなかった」
胸の中で首を横に振っている。
「俺たちのせいで、つらい思いをさせて、本当に、すまなかった」
首を横に振る動きが大きくなる。




