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「お前ーー!」
俺に胸ぐらを掴まれても、アオイは動じない。
「僕が憎い?いいよ、キスしても。そしたら、君は僕と縁が切れるし、僕は橋本さんを取り返せる。まだ壊れてないから、しばらく楽しめそうだ」
ふざけるな。
どこまで亜希を弄ぶ気だ。
「……爺さんのことは、水に流す」
俺は絞り出すようにアオイに言った。
「だけど、橋本さんはもう、勘弁してやってくれよ」
それは、懇願だった。
「お前も知ってるんだろ。爺さんがかけた呪いのせいで、橋本さんはもう十分苦しんだんだ。それなのに、俺がまた巻き込んだ。これ以上、不幸な目に遭わせないでくれ」
今ならまだ取り返しがつく。
亜希は、全部忘れて、幸せに暮らせる。
「どうかな」
俺に胸ぐらを掴まれながら、アオイは飄々としている。
「僕が介入しなかったら、橋本さんは今もまだ元カレと別れてないよ。きっと不幸な結婚生活を送ることになったはずだ」
「そんなの、分からないだろ」
「分かるさ。橋本さんはそういう運命の人間なんだよ。君が気に病む必要はない」
アオイが俺に顔を寄せてくる。
「さあ、どうする?僕にキスをして、橋本さんを返してくれる?」
こいつに渡すくらいなら、呪いを抱えたままの方がマシだ。
でも、このままでいいはずがない。
俺はいつか亜希を壊してしまう。
それに、いつアオイの気が変わるか分からない。
いっそ、亜希を壊してしまおうか。
そうすれば、アオイに奪われなくて済むだろうかーー。




