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「好きになるように誘導したって、どういうこと?」
指をよっつ折った状態のアオイに、亜希が問いかける。
「私は、自分で真野さんを好きになったの。行動を操ったか知らないけど、この気持ちは私だけのものだから」
「へえ。真野さんのこと、愛してるんだね」
アオイが亜希の方を見て、からかうように笑う。
「橋本さんがセクハラされて理不尽な目に遭うように演出したのは、僕さ」
指を折るのをやめて、アオイは得意げに言った。
「真野さんは、そんな君を見るに見かねて庇った。あれがなかったら君は、真野さんのことを何とも思ってなかったと思うよ」
谷川もこいつに操られていたのだーー。
アオイの持つ力の大きさを思い知らされて、俺は重大なことに気づいた。
「橋本さんが俺に好きだと言ったのも、お前が操ったのか」
俺に繰り返し好きだと言ってくれた亜希の声が、虚構の海に沈んでいく。
「そうだよ」
アオイの肯定で、決定的になる。
「そこまでしたら面白くないって思ってたんけど、君があまりにもしぶといから、奥の手を使わせてもらった」
「そんなの嘘」
亜希が取り乱す。
「だって、真野さんに告白した時のこと、私ちゃんと覚えてるし」
「僕に操られたからって、必ず記憶を失うわけじゃないよ。橋本さんを抱いた時の記憶は消させてもらったけど」
そんな2人のやりとりが、耳を通り抜けていく。
やっぱり、俺を好きになってくれた彼女は、幻だったか。
「あはは、そんな傷ついた顔しないでよ」
アオイは、俺を見て言った。
「僕も鬼じゃない。君が僕の正体に気づくチャンスだって与えてた。戸塚の時と同じ名前で君に近づいたのに、君が気づかないから」
敷間ーー。
爺さんが死に際に口にした名前。
俺はそれを色魔だと誤解した。
「お前、爺さんにも何かしたのか」
爺さんの容体が急変したのは、突然だった。
まさか、こいつが。
「向こうが僕を見て、勝手にびっくりしただけだよ」
アオイがヘラヘラと弁明する。
「僕だってびっくりしたさ。戸塚があんなシワシワの爺さんになってて」




