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「あはは。これだよこれ。こういうのが見たかったの」
アオイが満足そうに言う。
「橋本さん、君はどうしたい?真野さんからの愛から解放されて、全部忘れてしまいたい?」
愚問だ。
そんなの、答えは一つしかない。
「解放されたいに決まってーー」
「私はーー」
亜希は、ためらうように口を開いた。
「真野さんの呪いが解けないんだったら、私は、今のままでいい」
「何をーー」
俺に口を挟む隙を与えずに、亜希は続ける。
「私、真野さんと離れたくない。何も忘れたくない」
そんなはずがない。
今のままでいいわけがないだろ。
「アオイ、お前……!」
頭がいい彼女がこんなことを言うなんて、どう考えてもおかしい。
アオイに操られているのだ。
「いやいや、僕は何もしてないよ」
でも、アオイは俺の疑いを否定した。
「僕は今、人間観察を楽しんでるところなんだ。ここで介入したら、意味がないだろ」
だったら、何でーー。
「ねえ、知りたい?」
アオイは機嫌を直したように、ニヤニヤした顔を亜希に向けた。
「真野さんがその力を手放す方法」
亜希が、スマホから目を上げて大きく頷く。
アオイは、そんな亜希の唇に触れた。
「僕たちの世界ではね、唇や、口から発される言葉に、魔力が宿ってるんだ。つまりね、真野さんが僕にキスをすれば、その力は僕の元に戻ってくるーー」
話し終わる前に、俺はアオイの胸ぐらを掴んでいた。
「待ってよ。いいの?最後まで聞かなくて」
キスしようとした俺を、アオイが制する。
「これ以上、聞くことはない。呪いが解けるんだろ」
「そうだよ。君は普通の人間に戻る。それって、どういうことか分かる?」
いちいち、もったいつけやがって。
「俺も全部忘れるんだろ。いいよ、どうせ最初から間違ってたんだ」
精一杯の強がりでそう答えた俺に、
「それだけじゃないよ」
と、アオイは笑みを大きくした。




