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「そこをどけ」
亜希の手を取って、実験室の出入り口を塞いでいるアオイに短く命ずる。
これ以上話しても無駄だ。
「え、でもまだ……」
俺に手を引かれて、亜希が小さく抵抗する。
「そうだよ、橋本さんまだ発情してないよ」
「うるさい」
別に、ヤる場所を探しに行くわけではない。
「お前は俺の呪いを解く気がないんだろ。だったら、橋本さんだけでも解放する」
亜希が呪いに対して嫌悪感を示したのを見て、やっと覚悟が決まったのだ。
「解放するって、どうやってですか?」
亜希が背後でそう尋ねてくる。
その声が、俺を非難しているように聞こえた。
方法があるのなら、どうしてもっと早く解放しなかったのかと。
「橋本さん、真野さんは他の女に愛を囁きに行くつもりだよ」
俺の代わりにアオイが答える。
「そうすれば、愛の対象が橋本さんからその女に移るからね」
アオイに聞こえるように舌打ちをする。
余計なことを言いやがって。
だいたい、愛の対象って何だ。
こんなものは、愛とは呼ばない。
「そんな」
文字起こしされたアオイの言葉を読んで、亜希の抵抗が強くなる。
「待ってください、真野さん」
「仕方ないだろ」
俺だってこんなことはしたくない。
「俺だって分かってる。倫理に反してることくらい。でも、そうでもしなきゃお前はーー」
「違う、そんなことを言ってるわけじゃないです」
亜希の強い否定に、思わず振り向く。
彼女はまっすぐに俺の目を見上げてきた。
「真野さんはどうなるんですか?真野さんが呪いから解放されないと、意味がないです」
「そんなこと、お前は気にしなくていい」
「気にします。だって好……」
「黙れ」
何度、言う気だ。
俺はその言葉を返すことができないのに。




