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「知りたいですか?僕が橋本さんと何回寝たか」
壁に押し付けられながら、アオイが挑発してくる。
「やめろ」
「まあ、50回は超えてるでしょうね」
「やめろって言ってるだろ」
「真野さんがいつまでも日和ってるから悪いんですよ」
聞いていられなくて、アオイから手を離す。
知っていた。
亜希がアオイと付き合っていたことは。
それなのに、こんなにもみっともなく嫉妬している。
俺はそこで、亜希の様子がおかしかった理由に思い当たった。
「脅したのか」
再びアオイににじり寄って尋ねる。
「何がです?」
すっとぼけた表情で聞き返された。
「だから、さっき橋本さんの様子がおかしかったのは、お前が脅したからかって聞いてるんだ」
「ああ」
俺の問いの意味を理解して、アオイは笑った。
「まさか。そんなくだらないことしませんよ。そんなに心配なら、橋本さんに直接聞いたらいいじゃないですか」
亜希が、すんなり打ち明けてくれるとは思えない。
何でも、1人で解決しようとする子だから。
「いいから言えよ。橋本さんに何したんだ」
「だから、寝ただけで、何もしてませんって」
「だったら、さっきのは何だったんだよ」
「知りませんよ。僕と寝たのを急に思い出したんじゃないですか」
「そんなわけないだろ」
おちょくってくるアオイに腹を立てていると、前からゾロゾロと同じラボの学生が歩いて来た。
アオイがニヤリと笑う。
「みんなに言っちゃおうかな。真野さんは橋本さんのことが大好きだって」
「なっ……」
思わず後ろに飛びずさった。
アオイが不用意に、俺の気持ちを言語化するから。
「その慌てぶり。橋本さんにも好きだって言ってないんじゃないんですか」
「うるさい。勘違いするな。付き合ってない」
「へえ、じゃあ、取り返しちゃおうかな」
「お前……!」
分かっている。自分でも矛盾しているのは。
それでも、亜希のことになると、冷静ではいられない。
「冗談ですよ」
アオイは手をひらひらと振って、研究室の中に戻って行った。
ラボの学生たちも、何があったのかという顔をしながら、俺の横を通り抜けて行った。




