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「どうしたんスかね」
アオイが俺のそばにやって来て、亜希の後ろ姿を見送りながら首を傾げる。
かと思えば。
「……ああ、そういうことか」
何やら勝手に納得したようだ。
もう、声を発しても大丈夫だろうか。
「何がだよ」
「いや、こっちの話ッス」
しらばっくれるつもりらしい。
問い詰めたいけど、あんまり追及しても不自然だ。
亜希と同棲状態だということは、周りに隠している。
「それにしても、頑張ってますね、橋本さん」
アオイは、世間話でも始めるみたいな軽い口調で、しれっと話題を変えた。
男の声が聞き取れないのに、研究生活を維持していて偉い、という意味だろうけど、調子を合わせる気になれなかった。
無視して研究室の中に戻ろうとした俺は、アオイの続く言葉に立ち止まった。
「それとも、頑張ってるのは真野さんの方ですか?」
振り向くと、アオイは意味ありげな笑みを浮かべていた。
「どういう意味だ」
「だって、お二人、付き合ってますよね?」
いきなり図星を突かれて、ぎくりとする。
誰にも言っていないはずだ。
「惜しいな。久しぶりに人を好きになったのに」
アオイはそう呟いて、俺が動揺しているのを見ると、にっこりと笑った。
「もう、チューはしましたか?」
何だよ、それ。
いわゆる、男同士の下世話なノリってやつか。
このくらい大したことじゃない、落ち着け。そう、自分に言い聞かせる。
のに。
「橋本さんのおへその横にあるホクロ、あれ、エロいですよね」
アオイがそんなことを言ったから、聞き捨てるわけにはいかなかった。
「お前……!」
廊下の壁にアオイを押し付けて、睨みつける。
「ああ、あはは。安心してください。お二人が付き合い始める前の話なんで」
アオイは、相変わらず不気味な笑みを浮かべている。




