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愛してるって言わないで  作者: Mariko
聞きたくない
31/89

3

「私の母は、自殺でした」

 亜希が俺の背中でポツリと言った。

「私その時2歳とかで、あんまりよく覚えてないのですが」


 それは初めて聞く話だった。

 もっとも、そんな立ち入った話をするような間柄ではなかったから、当然といえば当然だ。


「母は耳が聞こえませんでした。私を産んだ時に、聴力を失ったそうで」

 亜希は淡々と続けた。

「父は見放されて、1人で私を育てようとしたんです」

 次第に小さくなっていくその声に、俺は悟られないように耳を澄ませる。

 亜希のすべてを知りたくて。

 

「ちょうどその頃、戸越さんーー真野さんのお爺さまが、実験マウスの聴神経の再生に成功したというニュースが出ました。

母はそれを見て、戸越さんのもとを訪ねたそうです。耳が聞こえるようになる方法があるなら、試したいと」


 それを聞いて、爺さんの言葉を思い出した。

 聴覚障害者には決して、この呪いの力を使ってはいけないーー。

 その表情には、悔恨の念が滲み出ていた。


「それから母は、家に寄り付かなくなりました。戻ってきたと思っても、すぐにまた出ていって。私は祖母に育てられるようになりました」

 まさか、と思った。


「祖母は信じてくれなかったけどーー、私、母は耳が聞こえるようになっていたと思うんです」

 続く彼女の言葉に、確信に変わる。


「一度だけ、私の言葉に反応したんです。家を出ていく母に、行かないでって言ったら、うるさいってーー」


 爺さんは言った。

 聴覚障害者にも、呪いがかかると。

 むしろ、耳が聞こえる人よりも強くかかって、ひと度『好きだ』と言っただけで、いとも容易く壊れてしまうのだと。

 そして、不思議なことに、爺さんの声とともに、女の声も聞こえるようになったそうだ。


 間違いない。

 爺さんが言っていたのは、亜希の母親のことだ。


「しばらくして、戸塚さんが母を連れて家にやって来ました。母は明らかにおかしくなってて。

戸塚さんは母を別の部屋に移すと、祖母にひたすら謝ってました。聴力を回復させようと試みているうちに、このような状態になってしまったと」

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