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「戸越さんは、」
亜希の声に、現実に引き戻される。
「最後、苦しまれたんですか?」
俺の胸の中で、彼女はそう尋ねた。
「苦しんだりはしてない」
俺はそう答える。
「ただ、死ぬ間際に、ひどく取り乱した様子でーー」
危篤に陥ったと連絡を受けて、駆けつけた俺の腕を、爺さんは信じられないほど強い力で握った。
そして、こう言った。
『色魔。色魔が現れたーー』
そいつに何をされたんだ。
俺がそう尋ねた時には、もう意識がなかった。
そして、二度と戻らなかった。
亜希は、俺の背中をゆっくりとさすった。
「真野さんが死ぬ時は、そばにいて、こうやって抱きしめていられたらいいのに」
濡れた声でそう呟いた。
「何言ってんだよ」
返す言葉もなくて、俺は亜希に背を向ける。
その、逆接。
彼女も分かっているのだ。
その未来が訪れることはないと。
この関係にいつか、終わりが来ることを。
ともすれば、口を滑らせそうになる。
愛してる、ずっと一緒にいてほしいと。
でも、ダメだ。
これ以上、呪いをかけたくない。
壊れてしまったら最後、呪いを解いても元に戻らなくなる。
だから俺は口が裂けても、この子に『愛してる』などと言ってはいけない。
彼女からの『大好き』に、同意することすらできない。




