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愛してるって言わないで  作者: Mariko
聞きたくない
30/89

2

「戸越さんは、」

 亜希の声に、現実に引き戻される。

「最後、苦しまれたんですか?」

 俺の胸の中で、彼女はそう尋ねた。

 

「苦しんだりはしてない」

 俺はそう答える。

「ただ、死ぬ間際に、ひどく取り乱した様子でーー」

 

 危篤に陥ったと連絡を受けて、駆けつけた俺の腕を、爺さんは信じられないほど強い力で握った。

 そして、こう言った。


『色魔。色魔が現れたーー』


 そいつに何をされたんだ。

 俺がそう尋ねた時には、もう意識がなかった。

 そして、二度と戻らなかった。


 亜希は、俺の背中をゆっくりとさすった。

「真野さんが死ぬ時は、そばにいて、こうやって抱きしめていられたらいいのに」

 濡れた声でそう呟いた。


「何言ってんだよ」

 返す言葉もなくて、俺は亜希に背を向ける。

 

 その、逆接。

 彼女も分かっているのだ。

 その未来が訪れることはないと。

 この関係にいつか、終わりが来ることを。


 ともすれば、口を滑らせそうになる。

 愛してる、ずっと一緒にいてほしいと。


 でも、ダメだ。

 これ以上、呪いをかけたくない。

 壊れてしまったら最後、呪いを解いても元に戻らなくなる。


 だから俺は口が裂けても、この子に『愛してる』などと言ってはいけない。


 彼女からの『大好き』に、同意することすらできない。

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