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愛してるって言わないで  作者: Mariko
離れられない
28/89

5

 自分が亜希に呪いをかけてしまったことを知ったのは、翌日、アオイから電話がかかってきた時だった。


『橋本さん、耳が聞こえなくなっちゃったっぽいですよ』


 電話口でそう告げられて、心臓が止まるかと思った。

 慌てて言われた場所に駆け付けたものの、アオイの前では何も言えなかった。俺が声を出せば、亜希を発情させてしまうと思ったからだ。

 それで、無言で彼女をその場から連れ出した。


 亜希の家の前まで来てから、恐る恐る声をかけると、彼女はみるみるうちに乱れた。

 呪いがかかったということは、俺と血の繋がりがないーーつまり、爺さんの娘ではないということだ。

 そう理解すると同時に、爺さんは亜希に騙されたのだと気づいて、一気にドス黒い感情が膨れ上がった。


 ずっと好意を押し留めてきた分、憎しみが加速して、そんな相手を征服するのは、気が狂いそうになるくらい興奮した。

 愛なのか憎しみなのか、分からなくなるほど。

 

 欲望を吐き出した後、亜希の顔を初めてまともに見た。

 憎んでも憎んでも、彼女は綺麗だった。

 その澄んだ瞳の中に、生い立ちを想像しようとした。

 俺にとっての呪いのように、彼女も何かを抱えているのではないか。

 そう思ったら、同情の気持ちが生まれて、解放してやろうという気になった。


 亜希を解放するのは簡単だ。

 他の女に好きだと言えばいい。

 そうすれば彼女は、自分の身に起きたことを忘れて、すべて元に戻るはずだ。

 そして記憶は、辻褄が合うように書き変わる。

 俺と交わらなかったかのように。


 もう一度だけ抱いたら、亜希を解放しよう。

 そう、思っていたのに。

 

 俺は知ってしまった。

 すべて爺さんの嘘である可能性を。

 亜希が純粋に俺のことを、好きだと言ってくれている可能性を。


 解放したら、亜希は俺のことを忘れるかもしれない。

 俺に対する想いごと、記憶から消えてしまうかもしれない。

 俺の婆さんは、爺さんのことを忘れて、最後まで俺を孫だと認識しなかった。


 忘れられる前に。

 もう一日、もう一日だけーー。


 そうやってずるずると1週間経って、俺は今日も彼女を抱いている。

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