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状況が変わったのは、2ヶ月前のことだ。
春休みに入ってすぐ、爺さんを見舞いに行った時、病室から亜希が出てきたのだ。
彼女は俺に気づかずに、足早に廊下を歩いて行った。
『何で橋本さんが来てるんだよ』
病室に入るなり、爺さんを問い詰めた。
『いくら爺さんでも、橋本さんに何かしたら許さないからな』
爺さんが彼女に呪いをかけたのではないかと思ったのだ。
そんな俺を見て、爺さんは、
『お前、まだあの子を諦めてなかったのか』
と、驚いたように呟いた。
それから、考えこむようにしばらく目をつぶった後、ゆっくりと口を開いた。
『あの子は、俺が外で作った娘だ。諦めろ』
ショックを受ける俺をよそに、爺さんは続けて言った。
『娘とはいえ、あの子の意地汚さには俺も辟易しているんだ。不倫をネタにゆすってきた。お前に気があるそぶりを見せたのかもしれないが、あの子はお前が俺の孫だと知っている。だから、お前に気があるわけではなくて、お前が相続する遺産狙いだろう。だから、気をつけろ。決して絆されてはいけないよ』
爺さんはこうも付け加えた。
『とはいえ、一番悪いのは俺だ。あの子を責めてはいけないよ。そっとしとくんだ。向こうが何か言ってきても、知らない振りをしてなさい。分かったね』
3歳の時に親を亡くして以来、爺さんと2人で暮らしてきたから、俺は爺さんの言葉を、信じて疑わなかった。
爺さんは、その後すぐに容体が悪化して、呆気なく逝ってしまった。




