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俺が好意を口にした途端、女は俺以外の男の言葉を聞き取れなくなって、俺の声に発情するようになるーー。
そんな馬鹿げた呪いが、爺さんから3代続いている。
この呪いのせいで多くの人が不幸になるのを、子供の頃からさんざん見てきた。
だから俺は、この呪いを自分の代で終わらせようと誓った。
それで、なるべく言葉を発さないように、なるべく人と、特に女と関わらないように、ひっそりと生きてきた。今後もずっと、そうするつもりだった。
そんな俺の努力を、亜希は台無しにした。
俺の研究に興味を持って、何かと俺に話しかけてきた。そんな女の子は初めてで、気づいた時にはもう、亜希しか見えなくなっていた。
亜希が、セクハラされた挙句、理不尽に大学を辞めさせされそうになった時には、怒りで我を見失った。
教授に食ってかかっただけでは飽き足らず、当時理事長だった爺さんに、教授と准教授をまとめて辞めさせるように頼み込んだ。
そんな目立つことをしたのは、人生で初めてだった。
思えば爺さんは、その時から亜希のことを悪く言っていた。
彼女にも非があったんじゃないか、とか、深入りしすぎるな、とか言った。
何らかの理由で、俺を亜希に近づけたくなかったのだろうけど、その時の俺はただ腹を立てただけで、その真意を問いただすことはなかった。
それ以来、亜希は俺にそれまで以上に話しかけてくるようになった。
その顔や声、匂いが、俺の全てを埋め尽くして、自分が罷り間違って好意を口にしてしまう前に、何とか彼女を遠ざけようとした。
その一方で、話しかけられると嬉しくて、強く拒絶できない自分もいた。
去年の秋ごろ、亜希がアオイと付き合っているという噂を聞いた。
嫌だったけど、変な期待をしなくて済む安堵の方が大きかった。
亜希が話しかけてくる度に、もしかして俺のことが好きなのだろうかと、勘違いしそうになっていたから。
彼女が幸せなら、何だっていいーー。
そう、自分に言い聞かせ続けていた。




