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愛してるって言わないで  作者: Mariko
言わない
23/89

3

「私は、何もされてないです」

 私の隣に腰を下ろした真野さんの視線から逃れたくて、身体を反対側に向ける。

「じゃあ、ーーお前の母親が何かされたのか?」

 図星をつかれて、ぎくりとする。

「い、言いません」

「なぜだ」

 追い詰められて私は。

「真野さんのことが、好きだから」

 そう答えるのが精一杯だった。

 嘘をつけばボロが出そうで。

 余計に真野さんを傷つけてしまいそうで。


「何でそんな嘘つくんだよ」

 真野さんの口調は、穏やかなものになっている。

「元はと言えば、お前がそんな嘘をつくからーー」

「嘘じゃないです。私、真野さんのことが、ずっと好きでーー」

「嘘つくなよ。お前、アオイと付き合ってるんだろ。さっきもあんなに密着して」

「だから、さっきのはアオイが急にーー」

「百歩譲ってそうだったとしても、こんなひどいことされたら、俺のこと嫌いになるだろ」

「嫌いになるも何も、ひどいことなんかされてません」


 背後で盛大なため息が聞こえた。

「勘弁してくれ」

 勘弁してほしいのはこっちだと思った。

「嘘をついたのは真野さんの方じゃないですか。私のこと、好きだなんて」

 私にぬか喜びをさせるのが目的だったのだとしたら、真野さんが払う代償があまりにも大きすぎる。

 嫌いな人に初めてを奪われるなんて。


「ああ、嘘だ。お前のことは嫌いだ。初めて会った時から、大嫌いだったよ」

「だったら、どうして……」

 どうして、私のことを抱きしめるのだ。

 そんなに優しい手つきで、包み込むように。


「頼むよ」

 耳元で、真野さんが囁いてくる。

「早く本当のことを言ってくれ。じゃないと、お前はまた、俺に抱かれなきゃいけなくなる」


 ずいぶんと回りくどい表現だ。

「真野さんが嫌なんでしょ?だったら帰っーー」

「分かってるよ、俺だって。さっさとお前を解放しなきゃいけないことくらい」

 後ろから抱きしめる腕に力がこもって、少し苦しくなる。


「俺に、この場に留まる口実を与えるな。さっさと本当のことを喋って、俺を外に放り出せ。そしたら、全部元通りにするから」

 その声は、私よりも苦しそうで。

「……どういう意味ですか?」

 何もかも、矛盾してる。

 私のことを嫌いだと言うくせに。


「これ以上は言えない。橋本さんを壊したくないんだ」

 私の首筋に触れる真野さんの唇はまるで、愛を囁くように。

 

 ひとつだけ、分かったことがある。

 私が本当のことを言わない限り、真野さんは私から離れていかない。


 それなら、ずっと黙っていようか。

 真野さんの腕も唇も、息づかいですら、離れたくない、離れたくないと、叫んでいるように聞こえるから。

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