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愛してるって言わないで  作者: Mariko
言わない
22/89

2

「あの、真野さんのお爺さまって……?」

 今にも部屋を出て行きそうな真野さんの背中に、そう尋ねた。

 真野さんは、勢いよく振り向いて、私の胸ぐらを掴んだ。


「戸越だ。3月に死んだ戸越達也だ。知らないとは言わせないぞ」

 衝撃を受けて、一瞬固まった。

「と、戸越さんって、あの、前の理事長の……?」

「そうだよ。爺さんから俺のことも聞いてたんだろ」


 聞いてない。

 今、初めて知った。亡くなったことも。


「え、でも、苗字が……あ、母方の……?」

 戸越と真野で名字が違うと思ったけど、母方の祖父であれば納得がいく。

 そう思ったけど。

「親父が縁を切ったんだ」

 真野さんはそう吐き捨てるように言った。

「それはどうでもいい。娘の振りして近づいたことは認めるんだな」

 首を横に振った。

 何度も振った。


 それは勘違いだ。

 確かに私は、この春休みに戸越が入院している病室を訪ねた。

 でもそれは、お母さんのことを聞くためだった。


 戸越はその時、自分に身寄りはないと言った。

 孫の存在を明かせば、私が危害を加えたりするとでも思ったのだろうか。

 だとしたら、戸越も人の親だったということか。


「違います」

 Tシャツの首元を掴まれながら否定する。

「戸越さんからは、慰謝料を貰ってただけで……」

 そこで、ハッとして言葉を切った。

 私は、戸越のことを憎んでいた。

 だけど、真野さんにとっては、大事なお爺さんだ。


「……慰謝料?」

 真野さんの、私のTシャツを掴む手から、力が抜ける。

「慰謝料って、何だ」

「何でもないです」

「爺さんが死ぬ前に言ったんだ。お前のことを、外で作った子供だって。それをネタにゆすられてたんだって。俺が孫だということも知ってるから、気をつけろと。そっとしとけと言われた。それは、嘘だったのか?」


 まるで、デタラメだ。

 戸越はなぜ、私のことを悪者に仕立て上げたのだろう。それも、よりによって真野さんに。

 私が恨むことはあっても、戸越に恨まれる筋合いはない。


「お前、まさか爺さんにも……?」

 真野さんが、何かに気づいたように、愕然とした表情で言った。

 あらぬ想像をされていることに気づいて、慌てて手を振る。

「ち、違います。私はーーそう、私は、戸越さんの言うとおり、娘の振りして近づいてーー」


 その筋書きが一番、真野さんを傷つけないのなら、私は悪者になろう。

 戸越さんの孫だとしても、私は、真野さんのことを嫌いになれない。


 でも。

「本当のことを言ってくれ。お前は爺さんに何をされたんだ」

 真野さんは、私の言葉を無かったことにしてくれなかった。

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