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「白々しいんだよ」
「……え?」
真野さんは、さっきまでの様子とは一転して、冷めた目をしていた。
「言っとくけど、全部知ってるからな」
何の話か分からない。
目で続きを促すと、真野さんは私の顎を掴み上げてきた。
「俺たちに関わったのがお前の運の尽きだ。そう簡単には解放しない」
続く真野さんの言葉は、さらに不可解だった。
その意味を考えあぐねて、押し黙った私は、真野さんの目を見ているうちに、あることに気づいてしまった。
真野さんが舌打ちをして、私の顎から手を離す。
その拍子に、私の目から涙がこぼれて、頬を伝った。
「怖いのか」
真野さんが問う。
「……違います」
手で涙をぬぐいながら否定する。
真野さんのことが怖くて泣いているわけではない。
「真野さん、好きでもない人と、初めてシたんだなって」
「はあ?」
私が無理に誘ったのだ。
「お前、この期に及んで、まだしらばっくれる気か」
「しらばっくれてるんじゃなくて、私、真野さんが何の話をしてるのか本当に分からない……」
「あんまり俺を怒らせるなよ。本当に取り返しがつかなくなるぞ」
「もう取り返しつかないじゃないですか。真野さん、初めてだったのに」
真野さんは、しばらく私のことを睨みつけていたけど、やがて大きなため息をついた。
「爺さんが騙されるわけだ」
テーブルに頬杖をついている。
「何がお前をそうさせたんだよ。よっぽど酷い目に遭ったのか」
その目には、少しだけ同情の色が灯っている。
だけど、やっぱり何を言っているのか分からない。
言葉は聞き取れるのに。
「谷川のせいか」
真野さんが思い出したように言う。
「それとも、もっと前から歪んでて、谷川のことも利用したのか」
それを聞いて、助けてくれた時のことを言っているのだと分かった。
「ごめんなさい」
「お前……!」
謝ると、真野さんに掴みかかられそうになった。
「違くて」
谷川先生を利用したりなどしてない。
「私、真野さんを怒らせてしまった理由が、本当に分からなくて」
そう続けると、真野さんは白けたように手を下ろした。
「まだ言うか」
「ごめんなさい。真野さんを傷つけるようなことをしたなら謝ります。でも、私はずっと、真野さんのことが好きだっただけで、それ以上のことは何も……」
何も、心当たりがない。




