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その日は大学の文化祭で、私は本郷と一緒に見て回っていた。
そこに、谷川先生から連絡が入った。
『すごい実験結果が出た。今すぐ暗室に来てくれ』
私たちはその頃、暗室に置いてある装置で細胞の形態を観察するような実験をしていた。だから、暗室を指定されたことに、違和感はなかった。
それで、怪しむ本郷を振り切るようにして、谷川先生のもとに向かった。
けれど。
すごい実験結果など出ていなかった。
それどころか、谷川先生は実験すらしていなくて、暗室の中で私の身体を執拗に触ってきた。
尊敬する人の豹変ぶりにショックを受けた私は、ろくに抵抗できなかった。
すると、いきなり暗室のドアが開いて、部屋の中が明るくなった。
本郷だった。
谷川先生に呼びつけられた私を、一旦見送ったものの、信じきれずに後をついてきたようだった。
助かった。
そう思ったのも束の間。
『やっぱり、デキてんじゃねーか、このビッチが』
本郷はそう私を罵って、否定する隙を与えずに暗室のドアを閉めた。
再び訪れたけど暗闇の中で、私は思考停止に陥った。
谷川先生は、そんな私にそれ以上触ることはなく、逃げるように暗室を出ていった。
翌日、私は教授に呼び出された。
そこで私は、自分から誘ったあげく、それをネタに谷川先生を脅す、悪い女に仕立て上げられていることを知った。
教授の口ぶりは事実確認を装っていたけれど、准教授である谷川先生の方を信じたがっているのは明らかだった。
その時、親がいないせいで子供の頃に受けてきた、差別や理不尽な扱いをまざまざと思い出した。
思わず泣いてしまった私に、教授はため息をついて、
『これだから女は嫌なんだよ』
と、うんざりしたように言った。
入る前は知らなかったけど、そのラボは女の学生をあまり取らないことで有名だった。
それでもう、すべてが嫌になった。
大学を辞めようと思って、研究室に戻って荷物をまとめていた。
その時だった。
『てめえらの腐りきった手で、あの子の未来を汚すなよ!』
教授室の方から、そんな怒鳴り声が聞こえてきた。
聞き取れたのはそれだけだった。
私の様子を見て少しざわざわしていた研究室内が、さらにざわついて、教授室を覗きにいった学生が戻ってきて声の主を明かすと、ざわめきがもっと大きくなった。
学生によって明かされた名前が、普段ほとんど声を発することのない、真野さんだったからだ。




